扁平上皮がん悪性度に関連のCD271糖タンパク質、がん診断・治療に応用は困難
東北大学は4月20日、食道がんの大部分を占める扁平上皮がんを特異的に検出できる抗体の開発に成功したと発表した。この研究は、宮城県立がんセンター研究所がん幹細胞研究部・藤井慶太郎研究員、玉井恵一部長、東北大学医学系研究科分子薬理学分野/抗体創薬研究分野・加藤幸成教授、病理診断学・笹野公伸教授(現:名誉教授)、東北医科薬科大学消化器内科・佐藤賢一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」電子版に掲載されている。
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がんは、日本における死因の第1位で、2020年にはがんによる死亡者37万8385人と報告されている。がんを診断・治療する上で、患者の安全を確保するため、がん組織を正常な組織から正確に区別することは極めて重要だ。しかし一般に、がんの診断は主に熟練者による細胞や組織の形態的な判別に頼っており、がん組織と正常組織の境界の場合、しばしば診断が難しい場合がある。がんだけにしか存在しないタンパク質など有効な目印があれば、診断がより簡便・正確になるが、そのような目印タンパク質は極めて限られている。
今回、研究グループは、食道がんを特異的に検出する新しい抗体を開発。研究グループの先行研究の成果より、食道がんの大部分を占める扁平上皮がんには糖タンパク質CD271が発現しており、CD271糖タンパク質が多く存在している扁平上皮がんではがんの悪性度が亢進することが明らかになっていた。しかし、CD271糖タンパク質は、食道の正常な扁平上皮にも存在するタンパク質であることからCD271糖タンパク質をがんの診断・治療に応用することは困難だった。
CD271糖タンパク質のみを認識のG4B1、がん症例のみを検出
加藤教授らの研究グループは、以前より、がん組織と正常組織の両方に存在するタンパク質の中には、糖タンパク質の糖鎖修飾が決定的に異なるものがあることを見出していた。そこで今回の研究では、その糖鎖修飾の違いに着目して抗体を作製した結果、がん組織に特異的な糖鎖修飾をもつCD271糖タンパク質のみを認識する新しい抗体(G4B1)の開発に成功した。
正常・上皮内腫瘍・がんを含む食道がん計114例を調べた結果、これまで市販されていたCD271糖タンパク質に対する抗体では、がん組織・正常組織の両者でCD271糖タンパク質が検出された。それに対し、新たに開発したG4B1抗体は、がん症例のみを検出することができた。
下咽頭がん・子宮頸がんでも、がん症例のみを検出
また、同じ扁平上皮がんである下咽頭がん・子宮頸がんを調べたところ、同様にがん症例のみを検出することができることを確認。
G4B1抗体がどのようにCD271糖タンパク質に結合するか詳しく調べた結果、この抗体はCD271糖タンパク質のシアル酸・O型糖鎖による糖鎖修飾とその立体構造を認識していることが明らかになった。
食道がん診断精度向上に期待
今回の研究により開発されたG4B1抗体により、食道扁平上皮がんの診断精度が向上することが期待される。また、食道がん特異的な糖鎖修飾の存在は、がん特異的治療の理解・開発が一層進むことも期待される、と研究グループは述べている。
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