3歳以上のASD児を対象に、共同注意の異常と言語の概念類推能力の関係を調査
金沢大学は4月14日、3~8歳の知的能力に重度な遅れのない、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ児童において、共同注意というコミュニケーション能力の異常が大きいほど、言語能力の一つである概念類推の能力(物の特徴など言葉のヒントから、何を意味するのかを類推する能力)が低くなることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大附属病院神経科精神科の佐野滋彦助教、人間社会研究域学校教育系の吉村優子准教授、医薬保健研究域医学系精神行動科学の菊知充教授、子どものこころ発達研究センターらの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」オンライン版に掲載されている。
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共同注意とは、ヒトにおいて生後半年から見られる、他者とコミュニケーションするための能力の一つ。子どもが自分の気になるものを指さして、母親にも見てもらおうとするなどの行動で表される。ASDを持つ児童においては、このような行動の出現する年齢が遅かったり、出現頻度が小さいなどの異常が見られる。
ASDを持つ児童において、共同注意行動と言語能力の間に関係があることが過去の海外の研究で示されていた。しかし、研究対象が3歳以下の児童が中心となっており、より高い年齢で共同注意行動と言語能力が関係するかは不明だった。また、過去の研究で評価されてきた言語能力のほとんどは、受容言語能力(言葉を理解する力)や表出言語能力(多くの語彙を話す力)であり、それ以外の、より複雑な言語能力が共同注意と関係するかも不明だった。そこで研究グループは今回、3歳以上の自閉スペクトラム症をもつ児童を対象に、共同注意の異常と言語の概念類推能力の関係を調査した。
心理検査と知能検査で、共同注意異常と言語の概念類推能力の関連を明らかに
ASDを持ち、知的能力に重度の障害を持たない3~8歳の日本人児童113人を対象に「ADOS」という心理検査で評価される共同注意の異常と、「K-ABC」という知能検査で評価される言語能力の関連を統計解析で評価した。
その結果、これらの児童において、共同注意の異常が大きいほど言語の概念類推の能力が低くなり、両者の間に統計学的に有意な相関があることがわかった。これにより、知的能力に重度の障害を持たず、ASDを持つ3歳以上の児童において、共同注意の異常と言語の概念類推の能力が関係することが判明した。
共同注意行動を促進する介入で、ASD児の社会適応能力を改善できる可能性
今回の研究成果により、ASDを持つ児童全般において、共同注意行動を促進する介入を行うことで言語の概念類推能力という複雑な言語能力をも高めることができ、将来の学校や社会における適応を改善していける可能性が示唆される。
「今後は介入研究を行い、共同注意を改善することで実際に知能が高まるのか否か、検証していく必要がある」と、研究グループは述べている。
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