頸髄不全損傷者1例、有酸素運動含む長期間理学療法の神経障害性疼痛への影響を検証
畿央大学は4月18日、長期間の理学療法(有酸素運動)が脊髄損傷後の神経障害性疼痛に及ぼす影響を頸髄不全損傷の単一症例を通して検証したと発表した。この研究は、同大ニューロリハビリテーション研究センターの佐藤剛介客員准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Spinal cord series and cases誌」に掲載されている。
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脊髄損傷後の神経障害性疼痛は、約半数近くで認められさまざまな健康指標の低下を引き起こすことが知られている。脊髄損傷後の神経障害性疼痛に対する介入として、さまざまなものが提唱されており、その中の1つに有酸素運動があげられる。車いす駆動による有酸素運動は、脊髄損傷後の神経障害性疼痛に対する即時的な鎮痛効果が得られることが明らかにされている。しかし、これまでの研究では、単回の介入による即時的な効果に限局されており、長期間の介入による鎮痛効果は検討されておらず明らかになっていない。
今回の研究では、頸髄不全損傷者1例に対して、有酸素運動を含む長期間の理学療法が脊髄損傷後の神経障害性疼痛におよぼす影響を検証。加えて、同研究では、鎮痛効果の機序を明らかにするために、神経障害性疼痛のバイオマーカーである安静時脳波活動から得られるPeak alpha frequency(PAF)を指標として測定した。
集中的歩行トレーニングで痛み強度軽減、運動野周辺で測定のPAF高周波域へのシフト確認
まず、C5レベル残存の頸髄不全損傷者に対して、18週間の介入を実施。介入は7日/週の頻度で行い、1回の介入は40分間だった。4~10週目の間には、有酸素運動を企図して体重免荷装置を用いた集中的歩行トレーニングを実施。安静時脳波活動は、1チャンネル脳波計を使用して測定した。
電極は、運動野に相当する領域に配置して閉眼状態で3分間測定し、PAFを算出。PAFは、α帯域のピークパワーを示す周波数で、視床-大脳皮質間の神経回路の活動を反映するとされており、高周波域へシフトしている場合に痛みの感受性が低下している状態であることを指している。
アウトカムは、脊髄損傷の評価としてInternational Standards for Neurological Classification of Spinal Cord Injury(ISNCSCI)の運動スコアと感覚スコア、主観的疼痛強度と疼痛範囲、安静時脳波活動としてPAF、動作能力の指標として10m歩行テストとWalking Index for Spinal Cord Injury II(WISCIII)を2週間ごとに測定。PAFについては入院時を基準として変化率(Δ)を求めた。
研究の結果、痛みの平均強度と最大強度のNRSスコアは6週間後に有意に減少し、ΔPAFは4週以降に有意に増加。ΔPAFの変化については、集中的な歩行トレーニングの開始と同時期に生じていた。ΔPAFは集中的歩行トレーニング期間の終了後に低周波域へのシフトを認めたが、入院時よりも高周波域へシフトした状態が維持されていた。
継続した有酸素運動、痛みがある身体部位に触れることなく痛みを軽減できる可能性
今回の研究は、長期間の理学療法(有酸素運動)を行うことで頸髄不全損傷者の上肢の神経障害性疼痛が軽減できることを初めて報告したもの。これは、継続した有酸素運動によって、痛みがある身体部位に直接触れることなく、痛みを軽減できることを示唆している。
さらに、有酸素運動を行っている期間は、PAFが高周波域へシフトしており、痛みの感受性が低下している状態であることを示している。今後は、複数症例に対して長期的な有酸素運動の効果と安静時脳波活動への影響を調べるとともに、神経障害性疼痛の性質と有酸素運動による鎮痛効果との関係を詳しく検証していく必要がある、と研究グループは述べている。
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・畿央大学 プレスリリース