SCZ発症リスクが最も強いバリアント「3q29欠失」、患者の臨床経過は?
名古屋大学は4月19日、染色体3q29領域のコピー数が通常の2コピーから1コピーに減るコピー数バリアント(3q29欠失)を持つ統合失調症(SCZ)患者4例を同定し、その臨床経過を検討した結果、3q29欠失をもつ患者4例では、SCZの治療で一般的に使用される薬剤(抗精神病薬)では十分な効果が得られないことがわかった(治療抵抗性統合失調症)と発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科精神医学・精神疾患病態解明学の尾崎紀夫特任教授、医学部附属病院ゲノム医療センターの久島周病院講師、精神科・親と子どもの心療科の名和佳弘特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」の電子版に掲載されている。
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ゲノムコピー数バリアント(CNVs)は、ゲノムバリアントの1つであり、頻度のまれなCNVsには、精神疾患や神経発達症の発症リスクに関連するものがある。その1つである3q29欠失は、SCZ発症の最も強いリスクとなるバリアント(オッズ比40以上)であると知られており、知的能力障害(ID)、自閉スペクトラム症(ASD)、双極性障害(BD)など他の精神疾患との関連も報告されている。3q29欠失によって影響を受ける領域には、約22の遺伝子が含まれる。その中でもDLG1、PAK2、FBXO45遺伝子は、脳神経細胞のシナプス伝達において重要な役割を果たすことから、精神疾患や神経発達症の発症に関連し得る遺伝子として注目されている。一方で、個々の患者について、精神医学的な表現型やその継時的変化、治療反応性を十分に検討した研究はほとんどなかった。
4例全例が治療抵抗性SCZ、うち2例でクロザピンが有効
研究グループは先行研究で、アレイCGH法を用いて3q29欠失を持つSCZ患者4例を同定した。今回は、この4例について、発達歴、家族歴、既往歴、精神症状、SCZ発症年齢、入院回数と期間、治療歴(抗精神病薬の投与量、治療反応性)、頭部MRI検査、脳波検査、認知機能検査、血液検査などを含む詳細な臨床情報を、後方視的に検討した。
その結果、4例全てのSCZ患者が高用量の抗精神病薬(ドパミンD2受容体拮抗薬)に対して治療抵抗性を示し、治療抵抗性SCZと診断された。そのうちの2例(患者3、4)にはクロザピンによる治療が実施され、2例ともに効果を認めた。これらの結果から、3q29欠失を有する治療抵抗性SCZ患者の治療にクロザピンの早期導入が有効である可能性が示唆された。
また、発達段階によって、ID、ASD、BD などに関連する多様な精神症状を示すことも判明。患者2は、軽度〜中等度のID、患者2、3は聴覚過敏や限定された反復的な行動や興味のパターンを含むASD 傾向を示した。全例に高揚気分、易怒性、興奮、攻撃性などの躁症状が認められ、バルプロ酸ナトリウムなどの気分安定薬が必要となった。頭部MRI検査では、小脳容積の減少や尾状核欠損等の脳の構造異常が4例で認められ、患者1、3の脳波検査でも異常所見が確認された(光刺激時に認めるびまん性の棘徐波複合)。
アレイCGH法の保険適用で病態解明や治療法開発の加速に期待
2021年10月にアレイCGH法が日本で保険適用となり、臨床現場で3q29欠失を調べることが可能になった。それに伴い、今後3q29欠失を有する患者の報告が国内でも増えることが予想されるが、今回のケースシリーズのような詳細な臨床経過記録をさらに蓄積していくことで、3q29欠失を有する患者の詳しい臨床経過が明らかになり、エビデンスに基づいた治療法の確立に役立つことが期待される。さらに、今回の知見は3q29欠失と治療抵抗性統合失調症との関連性を示唆しており、3q29欠失を起点としてどの様なメカニズムにより発症に至るかがわかることで、治療抵抗性SCZ全体の病態解明と新規治療薬開発につながることが期待される。