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要介護高齢者、4時間以上の離床で全身の筋肉量が保たれ嚥下機能が良い傾向-東京医歯大

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2022年04月18日 AM11:00

要介護高齢者の離床時間と全身の筋肉量・摂食嚥下機能との関連を調査

東京医科歯科大学は4月15日、65歳以上の要介護高齢者に対する摂食嚥下リハビリテーションとして離床が有効であり、少なくとも4時間、可能であれば6時間以上離床すると全身の筋肉量が保たれ、摂食嚥下機能が良い傾向にあることを示したと発表した。この研究は、大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、中川量晴准教授、石井美紀医員の研究グループによるもの。研究成果は、「Gerontology」オンライン版に掲載されている。

摂食嚥下機能は、口腔周囲の摂食嚥下関連筋群だけでなく、背筋などの体幹の筋肉量や筋力と関連することが知られている。健常高齢者では、摂食嚥下機能を維持するための運動を行い、体幹の筋肉や摂食嚥下関連筋群の機能低下を防ぐことが嚥下障害の予防と改善に寄与する。しかし、日常生活動作(Activity Daily of Living, )が低下した高齢者は、身体能力の低下により摂食嚥下機能を維持するための運動を行うことが困難だ。看護師、リハビリ職および介護職の介助により身体を動かす機会も限られている。そのような人に対するアプローチを考えることは臨床的に大変重要だ。

研究グループは過去に、要介護高齢者へのアプローチの1つとして、離床が摂食嚥下機能と関係することを示したが、要介護高齢者の離床時間と全身の筋肉量の関連や、全身の筋肉量および摂食嚥下機能を維持する具体的な離床時間について、検討は不十分だった。そこで今回は、要介護高齢者の離床時間と全身の筋肉量および摂食嚥下機能の関係を明らかにすることを目的とした。

ADLを3つに分類した後、四肢骨格筋と体幹の筋肉量や摂食嚥下機能などを評価

対象者は、首都圏在住で本学摂食嚥下リハビリテーション科から訪問診療を行ったADLが自立していない要介護高齢者で、年齢、性別、BMI(Body Mass Index)、ADL、併存疾患(Charlson Comorbidity Index, CCI)、服薬種類数、離床時間を調査した。ADLは要介護認定の基準を参考に、「Group1:介助がなければ歩行や立ち上がりができない人(3相当)」「Group2:介助があっても歩行や立ち上がりが困難な人(4相当)」「Group3:ほとんど寝たきりの人(5相当)」に分類。離床時間は、先行研究を参考に離床時間が0~4時間、4~6時間、6時間以上の3段階とした。さらに、「InBodyS10」(インボディ・ジャパン株式会社)を用いて、生体インピーダンス法で四肢骨格筋および体幹の筋肉量を測定し、四肢骨格筋指数(Appendicular Skeletal muscle Mass Index, ASMI)と 体幹筋指数(Trunk muscle Mass Index, TMI)を算出した。摂食嚥下機能は「Functional Oral Intake Scale(FOIS)」を用いて評価した。

データの解析は、全身の筋肉量(ASMI、TMI)および摂食嚥下機能(FOIS)について、離床時間別の群間で差があるか否か、1元配置分散分析およびKruskal-Wallis検定を用いて検討した。交絡要因調整のため、目的変数を全身の筋肉量(ASMI、TMI)とした重回帰分析を行い、四肢骨格筋と体幹の筋肉量に関連する要因を調べた。また、目的変数を摂食嚥下機能(FOIS)とした順序ロジスティック回帰分析を行い、摂食嚥下機能に関連する要因を調べた。

離床4時間では四肢骨格筋量と摂食嚥下機能が保たれ、6時間では体幹の筋肉量も多く平常食に近い食事が可能

解析の結果、離床時間が0~4時間の人に比べ、4時間以上の人は四肢骨格筋量と摂食嚥下機能が保たれていた。さらに、6時間以上の人は、四肢骨格筋に加えて体幹の筋肉量が多く、常食に近い食事を取っていた。要介護高齢者の全身の筋肉量は離床により保たれ、摂食嚥下機能は離床時間と体幹の筋肉量と関連することが明らかになった。

重力負荷を除いたモデルマウスの研究では、特別な運動をさせなくても、自分の体重を支えるという負荷を毎日、1日複数回与えると、筋肉量およびタイプ1筋線維の割合が維持されることが報告されている。つまり、筋肉を働かせて自分の体重を支えることにより、廃用による筋委縮を防ぐことが可能と言える。ヒトでも同様に、離床して車椅子等に座り、重力に抵抗する時間を設けたことで全身の筋肉量が維持された可能性があるという。

また、食事の形態が常食に近付くにつれて咀嚼が必要だが、咀嚼するためには覚醒と体幹機能が重要だ。6時間以上の離床で覚醒状態が安定しやすいことがわかっており、同研究から6時間以上の離床で体幹の筋肉量が保たれていることから、離床時間によって摂食嚥下機能に差が生じたと考えられるという。

今後も要介護高齢者がより効果的に体幹の機能を維持する方法の検討などを行う予定

これまでに報告されている離床時間と全身の筋肉量および摂食嚥下機能についての研究は、ADLが自立した人を対象とした研究が多数だった。ADLが自立していない要介護高齢者で離床時間が異なる群を比較し、全身の筋肉量や摂食嚥下機能との関連を調査したのは、今回の研究が初となる。要介護高齢者の摂食嚥下リハビリテーションとして離床を勧める際、これまでは科学的根拠をもって離床時間の目安を伝えることができなかった。しかし、同研究成果により、少なくとも4時間、可能であれば6時間以上離床することで全身の筋肉量が保たれ、摂食嚥下機能が良い傾向にあることが示された。

同知見により、要介護高齢者に対して訓練指導の代わりに日常生活に離床を取り入れる指導をする際、具体的な目標を設定することができるようになる。例えば、離床時間が0~4時間の人は車椅子上で食事を取ることを目標に、4~6時間の人は食事等の生活動作以外の余暇時間(テレビを見る等)も車椅子上で過ごすことを目標に、環境を整えるのが良いという。

「今後は、要介護高齢者がより効果的に体幹の機能を維持する方法の検討や、離床時間と摂食嚥下機能の因果関係を検証する予定だ」と、研究グループは述べている。

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