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DMDマウスの横隔膜にヒトiPS細胞由来骨格筋幹細胞を移植、生着に成功-CiRAほか

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2022年04月15日 AM11:00

ヒトiPS細胞由来の骨格筋幹細胞、横隔膜へ移植でDMDの呼吸改善を目指す

京都大学iPS細胞研究所()は4月13日、ヒトiPS細胞から誘導した骨格筋幹細胞をマウスの横隔膜に移植することに成功したと発表した。この研究は、CiRA臨床応用研究部門の三浦泰智 元特別研究学生・元非常勤研究員、櫻井英俊准教授、京都大学医生物学研究所の田畑泰彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」にオンライン公開されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

)は、筋肉にあるジストロフィンというタンパク質が欠損することによって発症する進行性の重篤な筋疾患で、根本的な治療法は開発されていない。また、DMDでは、病状の進行に伴い呼吸機能の低下し、呼吸器不全に至り、致死的な病態となる。呼吸機能は主に横隔膜の動きに依存する。ジストロフィン陽性筋線維を再生する方法として細胞移植治療が期待されているが、これまで疾患モデルマウスの横隔膜への細胞移植に成功した報告はなかった。

研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞から高い再生能を持つ骨格筋幹細胞の誘導に成功している。そこで今回、DMDの呼吸機能改善を目標に、この骨格筋幹細胞を横隔膜へ移植することを目指した。

マウス横隔膜へ細胞移植は可能だが、ヒト不死化細胞株では生着が少ない

研究グループはまず、移植方法の確立のため、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させたGFPマウスの筋肉から生体内の骨格筋幹細胞であるサテライト細胞を分取し、免疫不全DMDモデルマウスの横隔膜へ移植した。移植4週後に蛍光実体顕微鏡で観察した結果、横隔膜にGFPを発現した筋線維を確認できた。また、この筋線維はジストロフィンを発現していることから、マウスへのサテライト細胞が生着し生体内で骨格筋へ分化していることがわかった。これにより、直接横隔膜へ細胞移植が可能であることが示された。

この結果を踏まえ、培養細胞であるヒト不死化細胞(Hu5/KD3)も、サテライト同様に横隔膜に生着するかを検討するため、GFPを遺伝子導入したHu5/KD3を横隔膜へ移植した。Hu5/KD3が横隔膜へ生着し、筋線維へ分化していることを認めたが、その程度はサテライト細胞に比べ劣る結果だった。このため、移植効率を改善させるためには移植方法の改善が必要と考えられた。

混合ポリマーを移植基剤として用い、移植効率向上に成功

マウスの呼吸数は150~200回/分程度と速い。研究グループは、横隔膜の速い動きが原因で細胞の生着効率が悪いと仮説を立て、細胞の歩留まりを改善させるために移植基剤の検討を行った。臨床応用されているゼラチンとヒアルロン酸、アルギン酸に着目し、この3種類のポリマーを混合してマウスの前脛骨筋へ移植し、移植効率を比較。培地のみ(ポリマーなし)、ゼラチンのみ、アルギン酸のみ、ヒアルロン酸のみ、ゼラチンとアルギン酸の混合、ゼラチンとヒアルロン酸の混合の条件でHu5/KD3を移植し、移植細胞由来の筋線維をジストロフィンと細胞骨格タンパク質であるスペクトリンで標識し、移植効率を解析した。種々の条件の中で、ヒアルロン酸:ゼラチン=2:8(H2G8)、アルギン酸:ゼラチン=2:8(A2G8)の混合比率が有意に移植効率を高めることがわかった。

DMDモデルマウスの横隔膜へ骨格筋幹細胞を移植、生着を確認

この結果を踏まえ、iPS細胞から分化誘導した骨格筋幹細胞をH2G8とA2G8、混合ポリマーなしの3種類の条件でDMDモデルマウスの横隔膜へ移植し比較した。iPS細胞由来骨格筋幹細胞は移植効率がかなり低く、ポリマーなしや、A2G8の条件では骨格筋幹細胞の生着しない例も多いが、H2G8では他と比べ移植失敗例が少なく6本以上の筋再生を認めた割合が高い結果だった。

混合ポリマー(H2G8)は物理的ストレスを低減させ移植細胞の生存率を高める

骨格筋幹細胞を横隔膜へ移植する際には、33G(内径約70μm)の細い針を使用する。細胞が注射器(シリンジ)や針を通過する時点で、物理的ストレスがかかり、生存率を下げることが知られている。そこで、H2G8が細胞の増殖率低下を妨げるか検討した。結果、針を通過させる処置を加えることで細胞の増殖率が低下したが、H2G8を混合させた細胞はポリマーを含まない細胞より有意に細胞が増殖し、シリンジと針を通過させないグループと同等だった。この結果から、ポリマーには物理的ストレスを低減させる働きがあることが示唆された。

今回の研究により、DMDモデルマウス横隔膜へのポリマー混合基剤を用いた細胞移植方法が確立された。移植基剤を用いることで、移植時に細胞へかかるストレスが緩和されることが示唆され、移植効率が改善することを示された。研究グループは、「横隔膜への骨格筋幹細胞移植は依然として高いハードルがあるが、今後はこの手法を改良し、より多くの細胞を生着させることを目指す。さらに、他の骨格筋への細胞移植もこの手法により改善することが期待される」と、述べている。

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