術中の血液製剤によるアナフィラキシーの疫学は不明、確定診断も困難
名古屋大学は4月14日、手術中の血液製剤によるアナフィラキシーに関する大規模後方視的観察研究の結果を発表した。この研究は、同大医学部附属病院麻酔科の天野靖大病院助教、田村高廣講師、西脇公俊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Anesthesia」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
アナフィラキシーは時に生命を脅かす病態であり、迅速な診断と治療、予防が求められる。全身麻酔中はさまざまな薬剤がルーチンで短い間隔で投与されるため、どの薬がアナフィラキシーを起こしやすいのか知っておくことが重要となる。筋弛緩薬、抗生剤がアナフィラキシーを起こしやすいことは世界中の疫学研究で知られているが、手術中の血液製剤によるアナフィラキシーについては論文も少なく、疫学もほとんど知られていなかった。近年行われたイギリスの研究において、抗生剤と筋弛緩薬が原因の大半を占め、血液製剤によるアナフィラキシーは非常にまれで、発症率は4万2,000分の1であった。
血液製剤では原因検索のための検査(皮膚テストなど)の実施や確定診断が困難なこと、アナフィラキシー発症までに投与した他薬剤が原因の可能性を否定しなければならないこと、アナフィラキシー以外の輸血に伴う副作用を除外しなければならないことなどの理由により論文報告が少なく、疫学も不明と考えられていた。しかし手術中の血液製剤によるアナフィラキシーはヘモビジランスに報告(副作用報告)されておらず、過少報告の可能性を指摘している論文もあり、手術中の血液製剤によるアナフィラキシーの論文が少なく低発症率なのは診断が困難なのか、過少報告なのか、両方なのかはっきりしていなかった。
血液製剤投与後30分以内に発症と定義し、単施設での発症率を算出
研究グループは、名古屋大学医学部附属病院の12年間の全身麻酔6万2,146症例のデータを用いて、後ろ向きに血液製剤によるアナフィラキシー症例の検討をした。診断基準に近年提唱されたグレーディングシステムとスコアリングシステムを組み合わせ、さらに4,000論文を超える網羅的文献検索により、手術中の血液製剤によるアナフィラキシーは「血液製剤投与後30分以内に発症する」と定義することで診断能を上げた。
日本赤十字のヘモビジランスの値より3倍高値と判明
3万5,947総輸血回数のうち9症例を血液製剤によるアナフィラキシーと断定。血液製剤によるアナフィラキシーの発症率は3,994分の1と算出され、この値はイギリスの論文の約10倍高値であり、日本赤十字社のヘモビジランスの値より3倍高値であった。しかし、9症例全てで日本赤十字社に副作用報告はなされておらず、血液製剤によるアナフィラキシーは過少報告されている可能性が示唆された。
今回の研究から、手術中の血液製剤によるアナフィラキシーは、論文やヘモビジランスよりも高値であり、過少報告されている可能性が明らかになった。「この結果は、血液製剤は手術中のアナフィラキシーの原因として、これまでの想定より多いことを認識するのに役立ち、遺漏なく副作用報告する啓蒙につながると期待される」と、研究グループは述べている。