ヒトは二足歩行で産道が狭いため、肩が原因の難産は全分娩の1~4%
京都大学は4月13日、ヒトでは出生が近づくと、肩幅に直接関係する鎖骨の成長が減速し、出生後にそれを補うように加速することを発見したと発表した。この研究は、同大学大学院理学研究科の川田博士課程学生、森本直記准教授、中務真人教授の研究グループが、同大医学部、同霊長類研究所、東京大学、チューリッヒ大学(スイス)、ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)との国際共同研究として行ったもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。
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ヒトは頭が大きいだけでなく、肩幅も広い動物。大きな頭と広い肩幅は、メリットとデメリットをもち合わせている。大きな頭は優れた頭脳を、広い肩幅は二足歩行の安定や狩りにおける槍の遠投能力を与えるとともに、難産の苦しみをもたらした。ヒトでは二足歩行へと進化する過程で骨盤が小さく、産道が狭くなった。難産の原因としては頭がよく知られているが、肩も頭と同様に難産の原因となる。肩が原因の難産は分娩全体のうち1~4%の頻度で発生し、重篤な合併症や死産につながる。難産・死産は種の存続に関わる死活問題だ。頭については、産道を通るために頭蓋骨を未発達で柔らかい状態に保つという特徴が既に知られている。生まれて間もない赤ん坊の頭に触ると凹む部分があるのはこのためだ。一方、肩については、どのように出生という難関をクリアしているのか未解明で、なぜヒトという動物に、二足歩行、大きな頭、そして広い肩幅が同居できているのかは謎だった。
周産期に鎖骨の成長が減速し出生後に加速、四足歩行で産道の広いチンパンジーにはない現象
今回、研究グループは、肩の成長に鍵があると考え、胎児期から大人までの骨格の成長パターンをCT(コンピューター断層)により厳密に計測した。この結果ヒトでは、出生に関わる時期(周産期)に、肩幅を決定する鎖骨では成長が減速し、出生後にそれを補うように成長を加速させていることを発見した。一方、分娩に直接関係しない部位では、そのような成長パターンは見られなかった。さらに、ヒトと同様に肩幅は広いが、四足歩行で産道の広いチンパンジーや、そもそも肩幅の狭いマカクザルには、ヒトのような現象は見られず、二足歩行で産道の狭いヒトだけがもつ難産緩和のメカニズムだと考えられた。
さらに、難産のもうひとつの要因である頭と比べ、ヒトの鎖骨の成長パターンは特殊なものであることも明らかになった。分娩時に産道に対するサイズオーバーが問題となる頭の長さ(前後径)は、脳の成長を反映する。脳の成長には胎盤をもつ哺乳類で決まったパターンがあり、成長が減速すると再び加速することはない。これは脳が顕著に大きいヒトでも、脳が小さいチンパンジーでもマカクザルでも同じで、成長の減速は揃って出生前に始まることが知られている。ヒトでは成長の減速開始が出生の直前と、他種に比べ遅い点で特徴的。これは難産緩和に関連していると考えられているが、あくまでチンパンジーやマカクザルと共通の成長パターンが基礎となっている。同研究グループのデータでも、頭の前後径の成長パターンはヒトとチンパンジーとマカクザルで同じであることが確認された。一方、鎖骨ではヒトはユニークな成長パターンを進化させていたことがわかった。
ヒト肩の特殊な成長パターン獲得時期は要検証
「広い肩幅の謎」は解明された。では、いつ、どのように、ヒトは肩の特殊な成長パターンを獲得したのだろうか。化石の形態から、広い肩幅の起源は約350万年前の猿人段階にまで遡ると考えられているが、これは脳の著しい大型化が起きる前のことだ。研究グループは、特殊な成長パターンの獲得という点で肩が頭より先にヒト化したという仮説を立てているが、今後さらに詳しく検証する必要があるとしている。
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