PFCが心的体験と知覚体験をどのように表現しているかは不明だった
新潟大学は4月13日、マカクザルの大脳皮質、前頭前野領域(prefrontal cortex、PFC)で、知覚と記憶の想起によって引き起こされる脳活動に違いがあるか検証した結果、PFCでは、異なる周波数で振動的に活動する神経集団の局所的な空間配置によって知覚と内部イメージの違いが表現されていることを発見したと発表した。この研究は、中国・浙江大学系統神経認知科学研究所の谷川久副教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科神経生理学分野の長谷川功教授、川嵜圭祐准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「cell reports」に掲載されている。
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日常的な意識体験は、外界からの感覚入力と、心象風景や記憶の想起、夢などの内部で生成された心的イメージの両方に基づいている。一般に、これら2種類の認知体験は異なる現象と考えられているが、それらを区別する根本的な神経機構は依然として不明だった。
これまでに大脳皮質の視覚感覚関連領域では、実際の知覚時と心的イメージ時の同一の視覚内容に対する活動パターンが大まかには類似していることが報告されていた。今回研究対象としたPFCは、さまざまな実行機能が集中して存在する脳部位として知られており、感覚入力と処理と内部イメージを生成の両方に関与していることはわかっていたが、その活動パターンを時間的、空間的に詳細にしらべることが難しく、PFCが内部で生成された心的体験と外部で駆動された知覚体験をどのように表現しているかはよくわかっていなかった。
研究グループは今回、独自に開発したマイクロ皮質脳波法を適用し、高い時間・空間解像度で脳活動を計測することにより、2種類の認知体験を区別できる脳活動を発見した。
サルを用いた実験で、特定の周波数で振動的に活動する神経集団の局所的な空間パターンが重要と判明
研究では、マカクザルの一種であるニホンザルに色を想起させる課題を行わせ、課題を遂行中のPFCの神経活動をマイクロ皮質脳波法で計測した。サルはモニター上に呈示された色の付いていない手がかり刺激を見て、手がかり刺激ごとに任意に割り当てられた適切な色刺激(選択刺激)にレバーで答えるように訓練された。手がかり刺激と選択刺激の呈示の間に、何も呈示されていない遅延期間を挟み、思い出した色に対する脳活動を抽出できるようにした。
まず、モニターには何も呈示されていない遅延期間中のPFCの脳波から想起色を解読できるかを機械学習の解析手法を用いて検証。その結果、偶然よりは有意に高い確率で、遅延期間中の脳波から次に選択刺激として現れる色を予測できることがわかった。また、同じ手がかり刺激を呈示して色選択をさせない条件での脳波からは、このような予測はできなかった。このことは、遅延期間中にサルが次に選択すべき色に関する情報を想起し、それがPFCの脳波に反映されていると解釈される。
さらに、脳波のどのような信号特徴がこの予測・解読に重要か検討した結果、特定の周波数で振動的に活動する神経集団の局所的な空間パターンが重要であることを突き止めた。
実際の色と思い出した色では前頭前皮質の活動する場所だけでなく、神経細胞集団の振動的な振る舞いも異なる
次に、この心的イメージによる脳活動パターンが、感覚入力によって知覚された色による脳活動パターンと同じか、異なるかを検証。同じサルに選択色刺激を見せた時の応答を計測して、先ほどと同様の機械学習の手法を用いて、解読に重要な信号特徴を同定したところ、どの周波数帯域の振動的な活動の空間パターンも2つの状態では重なりがみられないことがわかった。これらの結果から、PFCでは同じ色を指すものであっても、心的イメージによる色と知覚された色は、異なる活動状態として表現されていることが示唆された。
以上の結果より、ニホンザルのPFCでは、異なる周波数で振動的に活動する神経集団の局所的な空間配置によって、色の知覚と内部イメージの違いが表現されていることが明らかになった。
神経メカニズムの解明だけでなく、解離性障害群に関する基礎的知見としても重要な発見
今回の研究成果は、色認識の神経メカニズムの解明に重要な知見であるだけではなく、統合的な意識的体験の神経メカニズムや病的な意識の乖離状態を理解する上でも重要な発見だ。
「現実感消失症などの解離性障害群に関する基礎的知見として、臨床医学の分野にも広く貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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