AD新薬開発、対照群と統計的有意差を証明できないことが一因で成功に至らず
富士フイルム株式会社は4月13日、進行予測AI技術(以下、AD進行予測AI技術)を用いて、2年以内に軽度認知障害(MCI)患者がアルツハイマー病(AD)へ進行するかどうかを最大88%の精度で予測することに成功したと発表した。この研究は、同社と国立精神・神経医療研究センターが共同で実施したもの。研究成果は「npj Digital Medicine」に掲載されている。
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認知症患者は、現在、世界中に約5500万人いると推定されている。さらに、人口の高齢化に伴って、2050年には約1億3900万人に増加すると予測されている。認知症の一種であるADの患者は、認知症の中で最も多く、今後もこの傾向は続くと予想されている。
近年、ADの新薬開発は、ADの主要な原因物質であるアミロイドβが発症前から蓄積し始めることから、より早期のMCI患者をターゲットに臨床試験が実施されてきたが、ほとんどの試験で成功に至っていない。これは、2年以内にMCIからADに進行する患者の割合が2割未満と少なく、臨床試験期間中に進行しないMCI患者が多く存在することで、対照群(偽薬など)に割り付けた同患者でも進行抑制と判断され、統計的有意差を証明できないことが一因となっている。
脳内の特定区域の画像特徴量に加え、認知能力テストスコアなどの臨床情報から予測
研究グループは、MCIからADに進行する患者をAIで予測し、その患者のみを対象にした臨床試験とすることで、新薬の有効性を正しく評価でき、治験の成功につながると考えた。
近年、深層学習の導入により、画像認識の大幅な精度向上を実現した研究成果が数多く報告されているが、深層学習による効果を十分に引き出すためには数多くの学習データが必要とされる。現在、物体認識の研究で最も有名な画像データベース「ImageNet」では、1000万点以上の画像があるが、ADの進行予測では、脳のMRI画像や認知能力テストスコアなどの複数情報が必要で、世界最大のAD研究プロジェクトNA-ADNI(北米人を中心に構成された研究)の公開データベースでも1,000人前後のMCI患者のデータしか存在しない。限られた学習データでいかに予測精度の高いAI技術を確立するかが研究の最大の課題だったが、同社は、ADの進行と関連性が高い、脳内の特定区域を対象とした深層学習によるAD進行予測AI技術の構築に取り組んだ。
同社が写真・医療分野で培った高度な画像認識技術を用いて、脳のMRI検査の三次元画像から、ADの進行と関連性が高いといわれている、海馬、前側頭葉を中心とした区域をそれぞれ特定。深層学習を用いて、海馬、前側頭葉を中心とする両区域からAD進行に関わる微細な萎縮パターンを抽出し画像特徴量として算出した。AIは、両区域で確認され読影診断で重要となる、海馬領域と扁桃体領域の萎縮パターンにより注目し、そのパターンからADへの進行を識別するようになるよう計画した。また、学習データには、NA-ADNIのMCI患者データを利用。ADの進行と関連性が高いといわれている、脳内の特定区域における画像特徴量に加え、認知能力テストスコアなど複数の臨床情報からADへの進行を高確率で予測することが可能な技術を確立した。
異なる人種の2つの患者集団で検証、正解率はNA-ADNI88%、J-ADNI84%
研究グループは、AD進行予測AI技術を用いて、2年以内にMCIからADへ患者が進行するかの予測を行った。NA-ADNIのみならず、AIにとって完全に未知でありかつ日本人から構成されるJ-ADNIのデータベースにAD進行予測AI技術を適用し、開発した技術の予測精度の客観的評価をあわせて実施した。
その結果、MCI患者群からADに進行する/しない患者の予測における正解率は、NA-ADNIで88%、J-ADNIで84%であった。また、正解率と同様にAIの重要な精度指標であるAUCは、NA-ADNIで0.95、J-ADNIで0.91となった。以上から、AD進行予測AI技術は、異なる人種でもMCIからADに進行する患者を高精度に予測することを可能とし、汎用性の高い技術として実証された。
AD治療薬の新たな臨床試験の患者選定にAD進行予測AI技術の適用を目指す
研究グループは今後、臨床試験データにてAD進行予測AI技術の予測結果を元に層別した患者の解析を行い、同技術の有用性をさらに検証する予定。具体的には、AD進行予測AI技術により患者の認知症進行の速さを予測し、1)進行しない患者を臨床試験の対象外とすること、2)対照群と治療群での進行速度分布のばらつきを低減すること、により、治験成功率の向上の可能性を検討する。AD治療薬の新たな臨床試験の患者選定にAD進行予測AI技術を適用することを目指す。
「また、AD進行予測AI技術のアルゴリズムを、さまざまな精神・神経疾患の脳画像や臨床データに応用することを検討していく。これにより、予後や治療反応性の予測にもつながり、個別化医療の推進の一翼を担えると期待している」としている。
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・富士フイルム株式会社 ニュースリリース