自然環境に拡散し続けているCPE、医療施設環境での実態把握は不十分
東京医科歯科大学は4月12日、医療施設環境からこれまでに報告のない遺伝的性質を示すKPC-2型カルバペネム分解酵素産生腸内細菌目細菌(CPE)を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科分子病原体検査学分野の齋藤良一教授、太田悠介助教と、京都府立医科大学大学院医学研究科分子病態感染制御・検査医学分野(東京医科歯科大学病院感染制御部)の貫井陽子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Applied and Environmental Microbiology」にオンライン掲載されている。
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近年、自然環境や医療機関内で抗菌薬に耐性を獲得した薬剤耐性菌が急増し、何も対策を講じなければ2050年にはがんの死亡者数を超える1000万人の死亡者が想定されるなど、薬剤耐性菌への対策は喫緊の課題とされている。そのため、2015年にWHOが採択した薬剤耐性対策の国際行動指針にもとづいて、世界各国で薬剤耐性菌の発生と拡大を防ぐ取り組みが行われている。薬剤耐性菌が拡散する経路として、日常的に多くの薬剤を使用する医療施設環境が注目されているが、環境中の薬剤耐性菌に関する情報は乏しく、その役割について十分な理解が得られていなかった。なかでも、カルバペネム系抗菌薬に対する分解酵素を持つことで耐性を獲得したCPEは、現存する多くの抗菌薬に耐性を示すことから人類の脅威として国際的に強く警戒視され、環境中におけるCPEの発生状況や拡散経路を知る事は重要な課題であると考えられてきた。
病院環境から分離のCPE、幅広い細菌宿主に薬剤耐性を伝播できる遺伝的性質を保有
今回、研究グループは、日本国内の病院汚物槽より分離したCPEについて、複数の次世代シーケンサーで完全ゲノム配列を決定し、遺伝的性質を調べた。その結果、カルバペネム分解酵素をコードする遺伝子はKPC-2遺伝子blaKPC-2と同定され、同時にキノロン系抗菌薬などの複数の抗菌薬に対する耐性因子を染色体やプラスミド上に保有していることも確認された。
続いて、blaKPC-2を搭載したプラスミドに着目しその発生・進化を探る目的で構造を解析したところ、今回分離されたプラスミドはIncP-6型に属し、国内の別の病院環境で検出されたプラスミドと極めて近い構造を持つことがわかった。加えて、blaKPC-2の周辺構造を詳細に解析したところ、世界的流行が危惧されるTn3トランスポゾン内に位置することが示されただけでなく、これまでに報告のないIncP-6/IncF複合プラスミドを持つことが明らかになり、今回検出したプラスミドは従来のプラスミドと比べて幅広い細菌宿主でのblaKPC-2の拡散に関与する可能性が示された。
薬剤耐性菌の原因解明や伝播防止に関わるリスク評価への応用に期待
今回の研究により、今後も拡大が予想されるCPEについて、病院環境における実態の一端を把握できた。これらの成果は、深刻な感染拡大が懸念される病院内感染を未然に防ぐリスク評価としての応用や、病院内環境除菌に関する指針策定の基礎情報としての貢献が期待できる。さらに、病院排水の汚染は、人の生活にも関わる川などの水質汚染との関連が指摘されており、適切な薬剤耐性菌モニタリングを目指す同研究は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に関わる活動の一環として、自然環境において国際的脅威となる薬剤耐性菌の発生・拡散抑止等に関わる公衆衛生対策を講ずる際に有益な情報を提供できると、研究グループは考えている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース