エコチル調査のデータにある妊婦の血中重金属濃度を指標に、生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連を解析
京都大学は4月12日、エコチル調査の約2,100組の親子のデータから、妊婦の血中重金属濃度と生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連について解析した結果、妊婦の血中重金属濃度は、生まれた子どもの口唇口蓋裂と関連が認められなかったと発表した。この研究は、神奈川ユニットセンター・京都大学医学研究科の竹内正人准教授、横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学の伊藤秀一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
口唇口蓋裂は、唇と上顎の形成不全を特徴とする先天性形態異常。日本では出生1万人あたり17~19人に認められ、この頻度は世界の中でも高いとされている。口唇口蓋裂の原因に関しては複数の要因が関連するとされているが、いまだ定まった見解はない。ここ数年、海外からの報告では、妊婦の重金属ばく露と生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連が示唆されている。しかし、これらの報告では妊婦が直接受けた重金属のばく露量を測定していないなどの問題もある。そこで研究グループは今回、エコチル調査のデータの中から、妊婦の血中重金属濃度を指標として、生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連について解析を行った。
4種類の重金属で、妊婦の血中重金属濃度は生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連認められず
生後1か月以内に口唇口蓋裂と診断された192人の子どもと、年齢や生活習慣(喫煙など)、ストレスなどの母親の特性を合わせた1,920人の口唇口蓋裂のない子どものデータを用いて比較を実施。その結果、4種類の重金属(鉛、カドミウム、マンガン、水銀)に関して、妊婦の血中重金属濃度は生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連を認めなかった。また、対象集団や統計解析手法などを変えた追加解析においても同様の結果が得られた。
一方で、今回の妊婦の血中重金属濃度は、総じて国際的に設定されている危険域を超える水域ではないため、さらに高い妊婦の血中重金属濃度と生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連に関しては否定できず、今後の研究が待たれる。
子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因解明に期待
今回の対象集団では、総じて妊婦の血中重金属濃度は低いものであり、これが結果に影響を与えた可能性がある。したがって、さらに高い妊婦の血中重金属濃度では、生まれた子どもの口唇口蓋裂との関連が認められる可能性があり、今回の対象集団と同じ妊婦の血中重金属濃度を維持または低減するような一層の努力が求められることが示唆される。
「引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかにしていくことが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学 最新の研究成果を知る