急性肺障害、病態に肺胞上皮細胞のアポトーシスが関与するが詳細なメカニズムは不明
三重大学は4月11日、細菌由来のペプチドであるcorisinおよび類似構造のペプチドが肺胞上皮細胞の細胞死を誘発し、急性肺障害を引き起こすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科免疫学講座の安間太郎助教、ガバザ エステバン教授、同大医学部附属病院呼吸器内科学の小林哲教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載されている。
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急性肺障害(acute lung injury;ALI)は、重症肺炎、敗血症や外傷などのさまざまな疾患が原因で起こる重度の呼吸不全の総称で、致死率が約40%と非常に高い重篤な疾患にもかかわらず、有効な治療方法が確立されていない。ALIは、肺胞上皮細胞の過剰な細胞死(アポトーシス)が病気の悪化に関連すると考えられているが、詳細な発症機構はわかっていない。
細菌由来のアポトーシス促進由来ペプチドcorisin、複数の菌種のトランスグリコシラーゼ内に含有
研究グループは以前に、マウスの線維化した肺組織からブドウ球菌Staphylococcus nepalensis(S. nepalensis)が産生するアポトーシスを促進するペプチドであるcorisinを発見し、corisinが特発性肺線維症の急性増悪を引き起こすことを報告している。
今回、研究グループは、corisinおよびcorisinに類似した構造のペプチドをさまざまな細菌が保有する肺線維症マウスの肺組織から細菌を純培養し、全ゲノムシークエンスを行った。すると、corisin保有菌であるS. nepalensisと、corisinに極めて類似したアミノ酸配列のペプチドを有するStaphylococcus haemolyticus (S. haemolyticus)であることがわかった。また明らかになったcorisin類似ペプチドのアミノ酸配列をGenbankのデータベースに入力し解析を行ったところ、複数の菌種のトランスグリコシラーゼ内に同様のアミノ配列が含まれていることがわかった。
肺胞上皮細胞株(A549細胞)をcorisin保有菌S. nepalensisおよびcorisin類似ペプチド保有菌S. haemolyticusの培養上清により処置したところアポトーシスが誘発され、合成して作ったcorisinおよびcorisin類似ペプチドで処置しても、同様にアポトーシスが誘発されることがわかった。次に、corisinに結合し活性を阻害するモノクローナル抗体を作製し、抗体の有無で肺胞上皮細胞株(A549細胞)をcorisn、corisin類似ペプチド、S. nepalensisおよびS. haemolyticusの培養上清により処置したところ、抗corisinモノクローナル抗体の存在下ではアポトーシスが抑制されることがわかった。
モデルマウスの急性肺障害の病態が、抗体によるcorisin活性の抑制で改善
マウスの気道内にcorisinを投与したところ、肺胞上皮細胞のアポトーシスの増加、血液中・肺組織中の肺障害マーカーの上昇、肺CT(computed tomography)画像の悪化を認め、急性肺障害が起こることがわかった。また、ブレオマイシン投与による肺障害のマウスにおいて、急性期に血液中のcorisin濃度が上昇していることもわかった。
さらに、corisinの気道内投与、LPS(リポポリサッカライド)の気道内投与、およびブレオマイシン皮下投与による複数の急性肺障害マウスモデルを用いて、モノクローナル抗 corisin抗体の治療効果を検討したところ、いずれの急性肺障害モデルにおいても、モノクローナル抗corisin抗体により治療したマウスで急性肺障害が改善することがわかった。
急性肺障害の根本的な治療方法の開発に期待
研究により、細菌叢由来のペプチドが急性肺障害の病態に関わり、それを標的にしたモノクローナル抗体が急性肺障害の病態を改善することが明らかになった。近年、細菌叢の違いがさまざまな病気関連することが報告されているが、細菌叢が病態に関与する詳細なメカニズムを明らかにしたものはない。「今回の研究は細菌叢の違いが単なる現象にとどまらず、直接的に急性肺障害の病態を引き起こす機序となりえることを証明したという意味で、意義のある研究成果と考えられる。研究成果が、急性肺障害の根本的な治療方法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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