抗うつ薬による薬物療法の寛解率、20年で大きな変化なし
関西医科大学は4月11日、うつ病患者の治療前の血中サイトカイン値を調べることが抗うつ薬選択に有用であることを示した研究について発表した。この研究は、同大精神神経科学講座の加藤正樹准教授らが、NTT西日本九州健康管理センタの阿竹聖和産業医・医長、福岡大学医学部精神医学教室の堀輝講師と共同で実施したもの。研究成果は、「The World Journal of Biological Psychiatry」に掲載されている。
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うつ病は、7%の生涯有病率、100万人超の年間患者数といった高い罹患率や、約2万5,000人/年にのぼる自殺との関連など、その社会的コストは年間3兆円を超えており、患者自身はもちろん、家族、社会にとっても大きな負荷を与える消耗性の疾患である。初の新規抗うつ薬が上市されてから20年以上が経過。現在10の新規抗うつ薬が上市され、経済状況や社会構造の変化に伴いさまざまな症状を呈するうつ病患者に対し、柔軟な対応が可能となっている。しかし、これら数ある抗うつ薬を、何に注意し、どのように使い分けるかを適切に判断するのはなかなか困難であり、薬物療法の寛解率は、この20年で大きな変化はない。
うつ病の原因は、一般的には脳内のセロトニンやノルアドレナリンといったホルモンのアンバランスによって起こるとする「モノアミン仮説」で説明されるが、それだけでは十分に説明できないこともわかってきている。近年はその原因に関して、新型コロナウイルス感染症でも話題となったサイトカインの異常に起因するとする「炎症性仮説」という機序が注目されている。
サイトカイン血中濃度と、ミルタザピンまたはSSRI治療による寛解との関連を検討
研究グループは、95人の外来うつ病患者について、未治療時の血液から得られたサイトカイン(TNF-α、IL1β、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、GM-CSF)の血中濃度と、無作為に割り付けられた2種類の抗うつ薬(ミルタザピンもしくはSSRI)の治療による寛解との関連をランダム化比較試験で評価した。関連が見出されたサイトカインを用いることで、治療前に抗うつ薬の反応予測や、適切な薬剤選択ができるかを検討した。
サイトカイン値の利用で通常の2倍ほど高い寛解率が期待できる可能性を示唆
うつ病患者の治療前の血中サイトカイン値TNF-αはIL-6、IL-8とIL-2はIL-4、IL-6とIL-8はIL-1、IL-6と、そしてGM-CSFはIL-4の濃度と相関していることがわかった。また、治療前のサイトカイン値をミルタザピンとSSRIの薬剤選択の基準として用いることで、通常の2倍ほど高い寛解率が期待できる可能性が示唆された。
具体的には、抗うつ薬治療による4週後の寛解率は、ミルタザピンで31.3%、SSRIで37.0%だった。また、解析により得られたサイトカインのカットオフ値を用いると、寛解率はミルタザピンで60.0%(TNF-αのカットオフ値利用)、あるいは50%(IL-2のカットオフ値利用)、SSRIで70.0%(GM-CSFのカットオフ値を利用)まで高まる可能性が示唆された。
サイトカイン値に応じた薬剤選択による治療最適化に期待
これまでも、うつ状態とサイトカイン値の関連性を調べた研究は多くあったが、今回のように治療前の血中サイトカイン値の測定が抗うつ薬の選択に有用であるというという発表はほとんどない。また、今回の試験は人為的なバイアスが結果に与える影響を低減できるデザインであるランダム化比較試験で行われており、この点もこれまでの研究とは異なる。「治療前に血中のサイトカイン値を調べることで、抗うつ薬による治療を必要とするうつ病患者に対して、どの抗うつ薬を選択するのが良いかの参考となり、一人一人の患者の治療を最適化することにつながるものと考える」と、研究グループは述べている。
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