エコチル調査約8万組の親子データを用いて解析
山梨大学は4月8日、仕事で医療用消毒殺菌剤を毎日使用していた妊婦から生まれた子どもは、使用していない妊婦から生まれた子どもと比べて、3歳時に気管支喘息やアトピー性皮膚炎になる割合が高いことが明らかになったと発表した。この研究は、同大エコチル調査甲信ユニットセンター・センター長の山縣然太朗社会医学講座教授、小島令嗣社会医学講座講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Occupational and Environmental Medicine」に掲載されている。
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医療用消毒殺菌剤は医療現場で広く使用されており、まれに職業性の気管支喘息を引き起こすと報告されているが、妊婦の職業上の医療用消毒殺菌剤使用と生まれた子どものアレルギー疾患発症の関連は今まで検討されていなかった。
今回の研究では、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」による約8万組の親子のデータを用いて、妊婦の職業上の医療用消毒殺菌剤の使用状況と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患との関連について解析した。具体的には、10万4,062人の妊婦のデータおよび生まれた子どもの3歳時のデータのうち、調査への同意撤回、死産、流産、妊婦の職業上の医療用消毒殺菌剤の使用および生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患のデータに欠測がある人を除いた7万8,915人を対象とした。
妊婦の職業上の医療用消毒殺菌剤の使用状況は、妊娠中期の質問票から職業での使用頻度を調査。使用頻度については、妊娠してから妊娠中期まで医療用消毒殺菌剤を仕事で半日以上かけて扱った回数を「いいえ」「月1~3回」「週1~6回」「毎日」から選択して回答。生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患は、3歳質問票にて気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの医師による診断の有無を調査した。
前述の質問票のデータを使用し、妊婦の職業上の医療用消毒殺菌剤使用と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患発症との関連について、多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析。一般的に小児のアレルギー疾患の関連因子として考えられているものには、妊娠前の母親のBMI、妊娠時の母親の年齢、両親のアレルギー疾患の既往、妊娠中の受動喫煙、妊娠中の飲酒歴、世帯収入、妊娠中の母親の職業、子どもが1歳時の母親の復職、分娩様式、早産、生まれた子どものきょうだいの数、生まれた子どもの出生体重、生まれた子どもの性別、母乳栄養による育児、生まれた子どもの1歳時の保育施設通園などがあり、それらを考慮した解析をした。
仕事で医療用消毒殺菌剤使用の妊婦の子、使用していない妊婦の子と比べて3歳時に気管支喘息/アトピー性皮膚炎割合「高」
解析の結果、仕事で医療用消毒殺菌剤を毎日使用していた妊婦から生まれた子どもは、使用していない妊婦から生まれた子どもと比べて、3歳時に気管支喘息やアトピー性皮膚炎になる割合が高いことが明らかになった。
一方、妊婦の職業上の医療用消毒殺菌剤の使用と、生まれた子どもの3歳時の食物アレルギー発症との関連は認められなかった。
医療用消毒殺菌剤の使用頻度が上がるほど、子の3歳時気管支喘息/アトピー性皮膚炎発症の可能性「高」
また、妊婦の仕事での医療用消毒殺菌剤の使用頻度が上がるほど、生まれた子どもが3歳時に気管支喘息やアトピー性皮膚炎を発症する可能性が高まる傾向にあった。
続いて、生まれた子どもが1歳時に母親が復職したかどうかで分けて解析。その結果、復職の有無にかかわらず、仕事で医療用消毒殺菌剤を毎日使用していた妊婦は、使用していない妊婦と比べて、生まれた子どもが3歳時にアトピー性皮膚炎になりやすいことが明らかになったとしている。
自記式の質問票による調査、研究の限界も
今回の研究の強みは、約8万組の親子の追跡調査のデータを用いたことだ。これによって十分な数の対象者を解析することが可能となり、より信頼性の高い結果が得られる。
一方で、同研究では、妊婦の職業上の医療用消毒殺菌剤の使用状況については、自記式の質問票で尋ねており、必ずしも実際の医療用消毒殺菌剤のばく露状況を反映しているとは限らないことを、同研究には限界としてあげている。
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・山梨大学 プレスリリース