妊娠前・妊娠中の母親の生活習慣と、子の3歳時点での自閉症診断との関連を検討
九州大学は4月7日、子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)の約10万人の情報を用いて、妊娠中の母親の身体活動量と睡眠時間が、子どもの3歳時点での自閉症診断と関連することを報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院保健学部門の諸隈誠一教授(エコチル調査福岡ユニットセンター)、中原一成大学院生(大学院医学系学府博士課程・研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」に掲載されている。
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対人関係が苦手・強いこだわりを持つなどの特徴を持つ発達障害の一つである、自閉症は日本でも増加しているが、その発症のメカニズムはまだ解明されていない。遺伝的要因や環境要因が自閉症と関連することは知られているが、妊娠前や妊娠中の母親の生活習慣が、生まれた子どもの自閉症と関連するかどうかを直接検討した報告は今までなかった。そこで研究グループは、エコチル調査のデータを用いて、妊娠前・妊娠中の身体活動量や睡眠時間などの生活習慣が、生まれた子が3歳になった時点での自閉症診断との関連を検討した。
エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国で10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。妊娠前・妊娠中のアンケート調査より母親の身体活動量や睡眠に関する情報を、出産後3年のアンケート調査で子どもが自閉症と診断されたかどうかの情報を集めている。
妊娠中の睡眠が6時間未満または9時間以上で自閉症診断のリスクが増加
参加者の中から、双子の妊娠や生まれつきの異常のある子どもなどを除き、正期産(妊娠37~41週)で出産した人の中で、出産後3年のアンケート調査への回答があった6万9,969人の母親と子どものデータを利用した。
身体活動量の検討は、アンケートに基づいて計算された身体活動量をもとに、対象者を5つのグループに分けて行った。睡眠時間の検討は、母親のアンケートで答えた睡眠時間をもとに対象者を「6時間未満」「6時間以上7時間未満」「7時間以上8時間未満」「8時間以上9時間未満」「9時間以上10時間未満」「10時間以上」の6つの群に分けて検討した。グループ分けを行い、妊娠前・妊娠中のそれぞれの生活習慣と子どもが3歳時点で自閉症と診断されているリスク比を対数2項回帰モデルで計算した。
その結果、妊娠中の身体活動量が最も多い群では、子どもが3歳になった時点で自閉症と診断されているリスクが40%程度低下していた。また、母体の睡眠時間の検討では、妊娠中の睡眠時間が「6時間未満」「9時間以上10時間未満」「10時間以上」の3つのグループで、睡眠時間が「7時間以上8時間未満」のグループと比較して子どもが3歳になった時点で自閉症と診断されているリスクが1.5~1.9倍程度に増加していた。一方、妊娠前の身体活動量や睡眠時間についても検討を行ったが、子どもの自閉症診断との間に関連は認められなかった。
他の要因を介して関連が生じている可能性、今後調査が必要
これらの結果から、妊娠中の生活習慣が生まれてくる子どもの将来的な自閉症の発症と関連している可能性が示唆された。しかし、妊娠中の生活習慣が子どもの自閉症の発症に直接関わっているかどうかが明らかになった訳ではない。妊娠中に適切な睡眠や身体活動を行っている人は、自身や子どもの健康への意識も高い可能性がある。食生活や出産後の子どもへの関わり方など、今回の研究で検討できていない他の要因を介して、睡眠時間や身体活動量と子どもの自閉症との間に関連が生じている可能性がある。研究グループは、妊娠中に睡眠を適切にとることや身体活動量を増やすことで、本当に子どもの自閉症のリスクを下げることができるかは、今後さらなる詳細な調査が必要、としている。
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・九州大学 研究成果