高校生サッカー選手の集団効力感、チームメイトとの関係における心理的ストレスレベルなどを調査
筑波大学は4月6日、心理的ストレスの原因を解決しようとする行動が、チームや選手の個人を成長させると発表した。この研究は、同大体育系 中山雅雄教授、東京成徳大学 健康・スポーツ心理学科 夏原隆之准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Football Science」に掲載されている。
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チームとして「私たちはできる」といった自信を表す概念を集団効力感という。集団効力感は、努力や忍耐力、さらにはパフォーマンスとも関係しているため、チーム作りにおいては、日々の活動でどれだけ集団効力感を高められるかが重要であるとされている。
集団効力感に影響を及ぼす要因の一つに、チーム内での人間関係がある。これは、スポーツ活動における心理的ストレスの一つとされている。近年、心理的ストレスは必ずしもネガティブな影響だけを与えているわけではなく、ストレスフルな出来事に直面したとき、その出来事が起きた理由や意味を理解し、それを通じて得られるものに対して意味づけを行うことで、そのような状況への適応や、精神的・身体的健康にポジティブな影響を与える(ストレスに起因して成長する)ことが報告されている。
今回、研究グループは、クラブ活動が若者の教育活動の一環として行われているという日本のスポーツ環境を勘案し、より良いチーム作りや競技者のスポーツ活動への適応を支援するためのヒントを得ることを目的に、高校生サッカー選手を対象に、集団効力感、チームメイトとの人間関係に関する心理的ストレスレベルと、それに対する心理的ストレス過程(認知的評価、対処行動、ストレス反応)について調べた。
競技レベルの高い選手は人間関係のストレスレベルが高く、集団効力感も高い
研究グループは、心理的ストレスのトランスアクションモデルに基づいて、U-18サッカーリーグにおける都県リーグに参加する高校サッカー部(5チーム)所属の高校生選手332人と最上位リーグ(プレミアリーグ)に参加するJリーグユースチーム(7チーム)所属の高校生選手206人、計538人の高校生サッカー選手を対象に、「チームとしての自信の程度(集団効力感)」「人間関係に対するストレスレベル」「人間関係に関するストレスをどのように捉えているか」「それに対してどのように対処するか」「ストレス反応」の5項目について、質問紙を用いた調査を行い、都県リーグを平均的な競技レベル、プレミアリーグを高い競技レベルと定めた上で、競技レベルによって、どのような違いがあるのかを分析した。
その結果、競技レベルの高い選手は平均的な選手よりも、人間関係に関するストレスレベルが高いことがわかった。一方で、競技レベルの高い選手の方が、高い集団効力感を持っていた。
集団効力感の高い集団は、困難に対する耐性があり、各メンバーが強い使命感を持って問題の解決に取り組み、良い成果を出すために協力し合うという特徴があることから、競技レベルの高い選手は、人間関係のストレスに直面した時に、その解決に向けて団結する機運を生み出し、集団効力感の高まりに帰結した可能性が考えられる。
競技レベルの高い選手は問題焦点型行動、平均的な選手は情動焦点型行動をとる傾向
また、人間関係ストレッサー(ストレスの原因)に対処する過程のそれぞれ(認知的評価、対処行動、ストレス反応)においても、競技レベルによる特徴的な違いが示された。チームメイトとの人間関係に関する問題に対して、競技レベルの高い選手は、問題そのものを自分でコントロールすることが可能であると捉え、積極的に問題解決に取り組む行動(問題焦点型行動)を選択する傾向が見られた。
一方、平均的な選手は、ストレスの原因そのものに対してではなく、それによってもたらされる反応(自分の感情)をコントロールすることに重点を置いてストレスに対処しようとする、情動焦点型行動をとる傾向にあることが明らかになった。
「情動焦点型」と「問題焦点型」両方の対処スキルを身につけることが重要
一般に、人間関係のような自分でコントロールすることが難しい心理的ストレスに対しては、情動焦点型の対処法がとられやすいが、それにより問題の原因が解決するわけではないため、絶えずその心理的ストレスにさらされることになる。一方、問題焦点型の対処法は、問題そのものを解消することにつながるため、より効果的なストレス対処行動だと考えられる。チームスポーツにおいて人間関係は、避けられない心理的ストレッサーの一つであり、同研究結果は、競技レベルなどに関係なく、すべての選手にとって、情動焦点型と問題焦点型の両方の対処スキルを身につけることの重要性を示唆している。
直面する問題に対して柔軟に対応する心理サポート法の開発につながる可能性
研究グループは、ストレスの経験からストレス反応の表出に至るまでの心理的ストレス過程における各要因間の因果関係や、それらがチームの自信の程度に及ぼす影響を明らかにするべく、さらに研究を進めている。これらの研究を通して、青少年の競技者が人間関係などの心理的ストレスに対して、自らがその場の状況に応じてストレスの原因そのものを解決したり、考え方や感情の持ち方を工夫しストレスを上手くコントロールするなど、問題に柔軟に対処するスキルを習得する方法を明らかにすることができれば、指導者によるチームマネジメントにおいて、競技者に対する適切なコーチングに資すると期待される。さらに、心理的ストレス過程をチームの一体感や自信との関係から深く理解することで、チームビルディングにつながるストレスマネジメントプログラムの開発を目指していくとしている。
「このようなプログラムは、スポーツメンタルトレーニング指導士などのスポーツ選手を対象とするスポーツ心理学の専門家が連携した、チームや選手個人への心理サポートに応用できると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL