糖尿病患者で褐色脂肪の熱産生低下、抗酸化ホルモン「セレノプロテインP」に着目
金沢大学は3月30日、糖尿病で高まる抗酸化ホルモンであるセレノプロテインPが活性酸素を過剰に消去することで、褐色脂肪組織での熱産生を障害することを発見したと発表した。この研究は、同大総合技術部生命部門の高山浩昭技術専門職員、医薬保健研究域医学系内分泌・代謝内科学の篁俊成教授らと、東北大学、北海道大学、天使大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
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動物の身体には大きく分けて白色脂肪組織と褐色脂肪組織の2種類の脂肪組織が存在している。白色脂肪組織はエネルギーを蓄えるための脂肪組織で、一般によく知られている皮下脂肪や内臓脂肪が該当する。一方で褐色脂肪組織は役割が全く異なり、脂肪を燃焼し熱を産生する脂肪組織である。褐色脂肪組織は特に新生児に多く存在しており、赤ちゃんの体温維持にとても重要な役割を果たしていることが知られている。近年、この褐色脂肪組織を活性化して熱産生を高めることが将来の代謝疾患の治療法になるのではないかとして注目を集めている。しかし、この褐色脂肪組織は肥満・糖尿病・加齢によって活性が低下することが報告されており、またその理由は十分にわかっていない。
過剰な活性酸素による酸化ストレスが、老化、がん、生活習慣病の原因となることが近年注目されている。一方、適切に調節された活性酸素は、細胞内の情報伝達を促進し、刺激に対する身体の応答を助けている。研究グループはこれまでに、2型糖尿病患者では抗酸化能を持つホルモンのセレノプロテインPの血中濃度が上昇し、高血糖を増悪させること、過剰なセレノプロテインPが骨格筋に作用し運動の健康増進効果を弱めることを報告している。
セレノプロテインPの過剰な抗酸化力が熱産生を障害、モデルマウスで
まず、健常成人男性43人の褐色脂肪活性と血中セレノプロテインP濃度を解析したところ、血中セレノプロテインP濃度が高い人ほど褐色脂肪活性が低いことがわかった。
また、セレノプロテインP欠損マウスは正常なマウスと比べて、寒冷刺激後の褐色脂肪組織周囲(マウス背上部)の温度が高くなっていることがわかった。セレノプロテインP欠損マウスは熱産生タンパク質UCP1の活性が高くなっており、このマウスに抗酸化剤を投与すると、UCP1の活性化はなくなった。このことは、過剰な抗酸化力がむしろ熱産生を障害することを示している。
セレノプロテインPはGPX4を介して熱産生抑制作用を発現
さらに、培養褐色脂肪細胞に熱産生ホルモンであるノルアドレナリンを投与すると活性酸素が増加し細胞温度が上昇したが、セレノプロテインPを予め処置しておくとこれらのノルアドレナリンの作用が消失した。加えて、抗酸化酵素のひとつであるGPX4を抑制しておくと、褐色脂肪細胞でのセレノプロテインPの作用が消失。このことは、セレノプロテインPはGPX4を介して熱産生抑制作用を発現することを示している。
以上の結果から、セレノプロテインPは褐色脂肪組織において熱産生を高める“良い活性酸素”を消去することで、熱産生を障害することが明らかになった。健康な状態では、セレノプロテインPは熱産生が高まりすぎないように調節する、ブレーキ役として働いていると想定される一方、糖尿病状態になるとセレノプロテインPが過剰になってしまい、熱産生を低下させてしまうと考えられる。研究グループは、このような過剰な抗酸化による機能障害を「還元ストレス」と提唱した。
2型糖尿病患者ではセレノプロテインPが過剰で、褐色脂肪熱産生が低下している可能性
褐色脂肪組織からの熱産生には、適度なストレスが必要であることがわかった。つまり、行き過ぎた抗酸化サプリの内服が、熱産生を抑えることで、肥満症や糖尿病の誘引となる可能性がある。セレノプロテインPの血中濃度は2型糖尿病患者や高齢者で上昇しており、このような人たちでは、セレノプロテインPが過剰にあるために、褐色脂肪熱産生が低下している可能性がある。「今後、褐色脂肪組織でのセレノプロテインPの産生あるいは作用を抑える薬剤が、エネルギー消費を亢進することで、肥満症や2型糖尿病をはじめとする代謝疾患を改善する薬となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・金沢大学 プレスリリース