ドナー角膜を用いた角膜移植の成績は不良、ドナーも圧倒的に不足
大阪大学は4月4日、iPS細胞から作製した角膜上皮を4人の患者に移植する世界初の臨床研究が完了したことを発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の西田幸二教授(眼科学)らの研究グループによるものだ。
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角膜上皮の幹細胞が消失して角膜が結膜に被覆される「角膜上皮幹細胞疲弊症」では、角膜混濁のため、重篤な視力障害が引き起こされる。これに対する治療として、ドナー角膜を用いた角膜移植が実施されてきたが、同疾患では拒絶反応が高率に生じるため、成績は不良だ。加えて、ドナー角膜は日本を含めて世界的に圧倒的に不足している。
このような課題を抜本的に解決するため研究グループは、ヒトiPS細胞を用いた角膜上皮再生治療法の開発を進めてきた。これまでに、ヒトiPS細胞から角膜上皮前駆細胞を誘導・単離する革新的な方法と、移植可能なヒトiPS細胞由来角膜上皮を作製する技術を世界で初めて確立している。さらに、動物モデルへの移植により、ヒトiPS細胞由来角膜上皮組織の治療効果と安全性を立証するとともに、種々の試験により、iPS細胞由来角膜上皮組織は造腫瘍性を認めないことなど、安全性を証明してきた。2019年3月、iPS細胞から角膜上皮を作製し、角膜疾患患者に移植して再生する臨床研究計画(第一種再生医療等提供計画)が、厚生科学審議会再生医療等評価部会での審議で承認を得た。
重症の角膜上皮幹細胞疲弊症患者に他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート移植、安全性や視力の改善などを評価
今回の研究では、4例の重症の角膜上皮幹細胞疲弊症患者に対し、他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート移植した。最初の2例において、iPS細胞シートとHLA型不適合の患者に対して、免疫抑制剤を用いた移植を実施。1、2例目の中間評価を行い、続く2例におけるHLAの適合、不適合および免疫抑制剤の使用の有無を決定した。
同研究の経過観察期間は1年で、終了後1年間の追跡調査を行う。主要評価項目は安全性であり、研究中に生じた有害事象を収集し評価する。加えて、副次評価項目として、角膜上皮幹細胞疲弊症の改善の程度や視力などの有効性を評価する。
免疫抑制剤の有無に関わらず、HLA型が不適合でも安全であることを確認
1、2例目ではHLA型が不適合の患者に対して、免疫抑制剤を用いた移植を行い、いずれの症例も拒絶反応、腫瘍形成といった重篤な有害事象を認めなかった。この結果をもとに、中間評価を行い、3、4症例は、HLA不適合・免疫抑制剤投与なしとして進めることとなった。後半の2症例においても、拒絶反応、腫瘍形成といった重篤な有害事象を認めなかった。
以上より、免疫抑制剤の有無に関わらず、HLA型が不適合であっても重篤な有害事象を認めず、安全性を示す結果が得られた。また、有効性を示す所見も得られた。現在、術後1年以降の追跡調査を含め、全例の経過を慎重に観察中だという。
角膜疾患で失明状態にある患者の視力回復に大きく貢献する可能性
今回の研究において、ヒトiPS細胞由来の他家角膜上皮細胞シート移植のFirst-in-Human臨床研究を世界で初めて実施し、良好な結果が得られた。この結果をもとに、同治療法を治験につなげ、標準医療に発展させることを目指すとしている。
「本法は、既存治療法における問題点、特にドナー不足や拒絶反応などの課題を克服できることが革新的治療法となりえ、世界中で角膜疾患のために失明状態にある多くの患者の視力回復に貢献できると考える」と、研究グループは述べている。