舌下免疫療法、2~3割程度の症例では効果が乏しい
筑波大学は4月6日、スギ花粉症に対する「舌下免疫療法」の応答性に関連する遺伝子型を同定したと発表した。この研究は、福井大学医学部医学科感覚運動医学講座耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の木戸口正典特命助教、藤枝重治教授、筑波大学医学医療系の野口恵美子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」にオンライン掲載されている。
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花粉やダニ(ハウスダスト)抗原を原因とするアレルギー性鼻炎は近年増加傾向で、日本人の2人に1人が罹患しているとされている。アレルギー性鼻炎の病態解明や治療法の確立は、喫緊の課題だ。舌下免疫療法は唯一根治性のある治療として注目され、国内では2014年にスギ花粉症、2015年にダニ抗原アレルギー性鼻炎に対する薬剤が発売された。しかし、舌下免疫療法は7割以上の症例に有効性が認められる一方で、2年以上の長期治療にも関わらず2~3割程度の症例には効果が乏しく、十分な普及には至っていない。そのため、舌下免疫療法開始時に応答性を予測するバイオマーカーの開発が望まれている。
舌下免疫療法実施のスギ花粉症患者203人対象、治療応答性を分析
近年では、ヒトの遺伝子に着目し、遺伝学(genetics)の観点から薬理作用である薬理学(pharmacology)との関連を明らかにする薬理遺伝学(pharmacogenetics)の重要性が注目されてきている。これまで、スギ花粉症患者では健常者と比較してHLA-DPB1*05:01遺伝子型の割合が高いことが報告されている。また、スギ花粉抗原ペプチドとペプチド結合ポケットであるHLA-DPβ1の立体構造的変化との関連が報告された。そこで研究グループは、スギ花粉舌下免疫療法において、患者が保有するHLA遺伝子型によって治療応答性が異なるのではないかと考え、研究を進めた。
スギ花粉舌下免疫療法を行っているスギ花粉症患者203人(平均37.8歳)を対象に、血液からDNAを抽出。HLA遺伝子型を決定し、治療応答性を分析。また、HLA遺伝子型による治療後の血清抗体量や、スギ抗原に対する血液の反応性をそれぞれ比較検討した。
HLA-DPB1*05:01遺伝子型保有患者、IL-10産生能「低」で舌下免疫療法応答性が低い可能性
検討の結果、スギ花粉舌下免疫療法を行っているスギ花粉症患者のうち、HLA-DPB1*05:01遺伝子型を保有する患者は、保有しない患者と比較して治療応答性が低いことが判明。また、HLA-DPB1*05:01遺伝子型を保有する患者は、保有しない患者と比較して、治療後のスギ花粉抗原に対するIL-10産生量が低いことが示された。IL-10は血液中の制御性T細胞などから産生され、舌下免疫療法の応答性と関連する早期バイオマーカーと言われている。
今回の研究結果により、HLA-DPB1*05:01遺伝子型を保有する患者は、スギ花粉による血液中において免疫反応の抑制性と関連する「IL-10産生能」が低いことで舌下免疫療法への応答性が低くなる可能性が示された。
また、実臨床での応用を前提として、従来の方法によるHLA遺伝子型決定法とは異なり、より簡便に安価で検査可能な方法として、HLA-DPB1*05:01と強い連鎖不平衡にある一塩基多型(tag SNP)を用いたHLA-DPB1*05:01遺伝子型の検査方法を提案したとしている。
HLA遺伝子の薬理遺伝学的検査、治療効果の事前予測に向けて
今回の研究成果により、スギ花粉舌下免疫療法への応答性において、HLA-DPB1*05:01遺伝子型を保有する患者は保有しない患者と比較して治療応答性が低いことが確認された。つまり、HLA-DPB1*05:01遺伝子型が、スギ花粉舌下免疫療法の応答性にも関与していた。
HLA遺伝子の薬理遺伝学的検査を用いることで、スギ花粉症に対して舌下免疫療法の治療効果を事前に予測し、患者にとってより良い医療の提供につながる可能性がある、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL