頭頸部扁平上皮がんの65~80%にTP53変異、WEE1阻害薬に着目
東京医科大学は4月4日、TP53変異のある頭頸部がんに対する新しい治療として、WEE1阻害薬とHDAC6阻害薬の併用療法の可能性を見出したと発表した。この研究は、同大耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野の塚原清彰主任教授、三宅恵太郎助教、生化学分野の宮澤啓介主任教授、高野直治准教授、公衆衛生学分野の菊池宏幸講師を中心とする研究グループによるもの。研究成果は「International Journal of Oncology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
頭頸部扁平上皮がん(舌がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん等)の治療は手術、化学放射線療法が主体であるが、既存治療である化学放射線療法は患者のQOLの低下が著しく、しばしば忍容性が問題になる。現在は、患者のがん組織から取り出したDNAを調べることで、よりそれぞれの患者の腫瘍に対して適した治療・薬剤を選択することが行われつつある。頭頸部扁平上皮がんは65~80%がTP53と呼ばれるDNA修復に必要不可欠な遺伝子に変異を有することが知られており、TP53変異は治療標的として有望視されている。
そこで研究グループは、TP53変異を持つがん細胞に対して強く殺細胞効果を示す既存のWEE1阻害薬(Adavosertib:Adv)に着目。腫瘍選択性を損なうことなくさらにその効果を増強する薬剤の組み合わせとして、histone deacetylase 6 (HDAC6)阻害薬(Ricolinostat:RCS)を新たに見出した。さらに、臨床応用へ発展させていくため、AdvとRCSの併用がどのような機序で相乗的に殺細胞効果を増強させているのか、その作用機序の解明を目指した。
Adv+RCS併用の殺細胞効果、TP53変異のあるがん細胞株に対してのみ増強
具体的には、TP53に変異を有する頭頸部がん由来の細胞株にAdvとRCSを同時に加えると、殺細胞効果が相乗的に増強する結果が得られた。また、正常なTP53を有する他のがん細胞に遺伝子編集技術を用いてTP53を欠損する細胞を作成したところ、AdvとRCSの併用による殺細胞効果がTP53遺伝子の欠損により著しく増強され、Adv+RCS併用による殺細胞作用の相乗的な殺細胞増強効果はTP53の変異の有無などに依存することがわかった。
正常細胞は一般的にTP53変異を持たないため、TP53変異を持たない正常な細胞に対しては毒性を強めず、TP53変異を有するがん細胞に対してのみ薬剤の効果を増強する(副作用の効果を強めず、がんに対する薬効を強める)薬の組み合わせを新たに発見した。
Adv+RCS併用により、mitotic catastropheが強力に誘導され、細胞死が増強
Adv+RCS併用によって薬剤の効果が上昇するメカニズムの検証を行ったところ、Adv単剤で処理した時は、細胞がAdvの薬効に抗いDNA修復を行うために細胞周期を止めるためのシグナル(Chk1のリン酸化)の活性化が惹起されるが、ここにRCSを同時添加することで、細胞周期が進行し、DNA二本鎖切断が誘導され、細胞死がさらに強まることを発見した。そしてこの細胞死の増強はM期への強制的エントリーによるmitotic catastropheが強く誘導されることによって起こることが判明した。
Adv/RCSはともに臨床試験が進行中、臨床応用に期待
今回の研究で、TP53に変異を持つことががんゲノム検査によって判明した患者に対し、AdvとRCSを併用することでより治療効果を高めることができる可能性を見出した。AdvとRCSはともに臨床試験が進行中の薬剤で、Advはすでに頭頸部がん領域においては既存の治療法にAdvを組み合わせた臨床試験が進行中である。今後、実臨床での両薬剤併用療法が大いに期待できる薬剤の組み合わせと考えられる。「TP53機能を欠く細胞に対して高い特異性を持つこの薬剤の組み合わせは、TP53に変異を持つ頭頸部がん、およびTP53機能異常を起こすヒトパピローマウイルス(HPV)陽性の頭頸部がんの患者にとって治療の良い選択肢になると思われる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科大学 プレスリリース