医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 未診断疾患イニシアチブ(IRUD)、6年間で2,247家系の原因確定-NCNPほか

未診断疾患イニシアチブ(IRUD)、6年間で2,247家系の原因確定-NCNPほか

読了時間:約 3分34秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年04月06日 AM11:30

未診断疾患、全国で3万7,000人以上

(NCNP)は4月5日、(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases:)について、6年間の活動と成果を発表した。この研究は、同研究センターなど複数の医療・研究機関、およびIRUDコンソーシアムによるもの。研究成果は、「Journal of Human Genetics」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

医学が進歩した現代であっても、依然として原因が不明である疾患は少なくない。遺伝性疾患のデータベースであるOMIMによると、登録されている9,000疾患の3分の1が原因不明となっている。また、原因がわかっていたとしても、非常に希少だったり、病気の症状が複雑であったりする。このことから、さまざまな病院で検査を受けたとしても、診断がついていない患者が多くいる。

日本では1972年に難病対策要綱が策定され、希少 ・難治性疾患の克服に取り組んでおり、着実な成果を挙げてきている。しかし、2015年と2016年に行われた日本医療研究開発機構()の調査では、全国で3万7,000人以上の患者が診断のついていない、いわゆる「未診断疾患」であるというデータも得られている。このような未診断疾患の解決は世界的な潮流であり、各国が協力して研究を推進する体制が構築されている。

日本でも、2015年にAMEDの基幹プロジェクトとして未診断疾患イニシアチブ(IRUD)が発足。IRUDの目標は、「全国どこにいても・誰であってもIRUDに参加できる体制を作る」「網羅的ゲノム解析に代表される革新的な技術を活用して診断を確定する」「国内外でデータを共有(データシェアリング)して利活用することにより、未診断疾患の解明・克服を目指す」ことだ。今回、IRUDはこれらの目標を達成し大きな成果を上げることができたとし、6年間の活動と成果を発表した。

「全国どこにいても・誰でも」診断できる体制を確立

まず、2021年3月終了時点で、全国37の拠点病院・15の高度協力病院・398の協力病院、計450施設がIRUD診断連携に参加。また、5施設の解析センター・1施設のデータセンターが設置されている。全体を統括するコーディネーティングセンターは国立精神・神経医療研究センターが担当した。また21専門分野において臨床専門分科会が構成され、専門家524人が参加した。このようにして、希少・未診断疾患の「全国どこにいても・誰でも」診断できる体制が確立した。

診断率43.8%、24の新規原因遺伝子と4つの新規疾患概念を発見

続いて、6年間のIRUDの活動により、6,301家系1万8,136人がIRUDに参加。5,136家系の解析が完了し、2,247家系で原因が確定した。診断率は43.8%。諸外国の同様のプロジェクトを超える高い診断率が得られたという。

また657遺伝子で1,718種類の変異が同定され、日本の希少・未診断難病の遺伝学的背景が初めて明らかとなった。この中で1,113種類(64.8%)が新規の変異だった。疾患の新しい原因遺伝子や、新たな疾患概念も数多く発見したという。これまで疾患との関連が知られていなかった24遺伝子が、新たな原因遺伝子として同定された。その他、新たな疾患概念として4疾患が発見され、12疾患において新たな臨床像が確認された。

多くの人材育成にも貢献

さらに、人材育成においても大きな成果を達成。2018~2020年度にかけて、189人が施設内、60名が他の施設で昇進し、156名が臨床遺伝専門医、79人が認定遺伝カウンセラーの資格を取得したとしている。

同定した原因遺伝子は657種類、その約半数は1家系のみのまれな疾患

IRUDの最大の意義は、これまでどこの施設でどのような検査をしても診断がつかなかった2,247家系もの患者の診断を確定したことだ。同定した原因遺伝子は657種類にのぼり、そのうち約半数は1家系のみに認められた極めてまれな疾患だという。さらに、新しい原因遺伝子や新しい疾患を多数発見したことも顕著な業績だとしている。このことは、日本の希少・未診断難病の遺伝学的背景を初めて多数例で明らかにしたものであり、遺伝学的検査の診療実装などゲノム診療の発展に大きく貢献するという。

診断の確定は最適な診療の第一歩であり、治療に直結し著明な効果が得られた例も報告されている。さらに、IRUDの成果を用いたプロジェクトIRUD Beyondによって、動物モデル、iPS細胞、ゲノム編集などを活用した病態解明・治療法開発の研究が進んでいる。IRUDのデータは国際標準に準拠するIRUD Exchangeにより国内外の研究者とデータシェアリングされ診断の確定などの成果が出ている。得られたゲノム情報やリソースも公的データベースで登録・保管され、広く活用できるようになっているという。

当初の目標を大きく超える成果を達成

全国どこにいても、誰であっても未診断の患者が参加できる体制が構築され、地域医師会も参加し、小児から成人に至るまでのスムースな流れ(移行医療、transition medicine)が実現している他、海外の類似のプロジェクトと比べても極めて低額の予算で大きな成果を上げていること、類似の症状を呈する非常にコモンな疾患の病態の解明や治療法の開発に役立っていることなども同研究の意義として挙げられている。

IRUDは、全国を網羅する希少・未診断疾患の診療・研究体制を確立し、当初の目標を大きく超える成果を達成して、希少・未診断疾患の診療・研究・教育に貢献した。一方、まだ未診断の患者が多数残っており、IRUDのさらなる発展が期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大