マウス生体内のクローン変化、患者での難治性クローンの選択過程を検討
名古屋大学は3月29日、急性骨髄性白血病(AML)患者の白血病細胞を免疫不全マウスへ移植する患者由来異種移植(Patient Derived Xenotransplant:PDX)マウスモデルの作製により、実際の患者での再発や治療抵抗性に関わる難治性クローンの同定が可能であることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学の清井仁教授、川島直実助教、名古屋大学医学部附属病院血液内科の石川裕一病院講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
AMLの発症・進行にはさまざまな染色体異常や遺伝子変異が深く関わり、一つのみならず複数の遺伝子異常の獲得が、AMLの病態形成には必要と考えられている。また、AMLでは染色体異常や遺伝子異常に基づく予後の予測、治療方針の選択が行われている。しかし、AML診断時の白血病細胞は、さまざまな染色体異常、遺伝子異常を持つ複数のクローンから構成されており、その中からどのような特徴を持つクローンが治療後も残存するのか、再発の原因となるのか見極めるのは困難だ。AMLの治療成績向上のためには、そのような治療過程でのAMLのクローン性変化、難治性クローンの特徴、その治療抵抗性にかかわるメカニズムを明らかにする必要がある。
今回の研究では、AML患者160例の白血病細胞を免疫不全マウスへ移植するPDXモデルの作製を通じて、マウス生体内でのクローン変化と実際の患者での難治性クローンの選択過程について、検討した。
FLT3、WT1、TP53、TET2、KRAS遺伝子変異ありAML細胞割合は徐々に増加
160例のうち、105例(66%)で免疫不全マウスへの生着が認められた。AMLの分類と生着についての検討では、AMLの形態学的分類であるFAB分類、AMLの予後リスク分類との関連が認められ、AML診断時の細胞よりも、再発・治療抵抗期の細胞の方が高い生着率を示した。
また、生着の有無でAML細胞における遺伝子変異を比較すると、生着したAML細胞ではFLT3、NPM1、IDH1、WT1遺伝子変異が高頻度に認められた。
さらに、マウスに生着したAML細胞を、免疫不全マウスで繰り返し継代を行った。その結果、FLT3、WT1、TP53、TET2、KRAS遺伝子変異を持つAML細胞の割合は徐々に増加し、逆にNRAS、CEBPA遺伝子変異を持つAML細胞の割合は徐々に減少した。
AML細胞生着の患者、生着しなかった患者と比較で治療成績が劣る
次いで、診断時AML細胞の免疫不全マウスへの生着の有無と化学療法の治療効果を患者76人で検討。その結果、AML細胞が生着した患者は、生着しなかった患者と比較して、明らかに治療成績が劣っていたとしている。
病態の解明、治療開発に期待
同研究により、免疫不全マウスに患者由来AML細胞を移植する、AML異種移植マウスモデルを用いた白血病研究は、白血病治療薬の有効性の評価のみならず、難治性AMLクローン出現過程の解明、治療抵抗性に関わる分子の同定に有用であることが、新たに明らかになった。
これらの研究を通じたAMLの難治性クローンの同定、背後にある病態の解明、それを克服するための治療開発が期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・名古屋大学 プレスリリース