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MRIの脳画像データで慢性期統合失調症と健常群を判別する機械学習器を開発-東大ほか

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2022年03月31日 AM11:15

多施設・プロトコルデータにおける機械学習器の応用が課題だった

東京大学は3月28日、複数の脳構造画像データセットを高精度に統合する技術を新たに用いることにより、統合失調症の判別に寄与し、新規のデータにおいても汎用性の高い機械学習器を開発することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センターの小池進介准教授、同大医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授、同大医学部附属病院放射線科の阿部修教授、浜松医科大学医学部精神医学講座の山末英典教授(前東京大学医学部附属病院精神神経科准教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Schizophrenia Bulletin」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

精神疾患の診断は、現在でも精神科医による問診が主な判断基準となっており、血液や画像などを用いた客観的な診断補助が求められている。機械学習は近年より一般的になった分類手法で、これまで統合失調症や発達障害でわかっていた脳構造画像の特徴を用いて、診断補助となり得る可能性を秘めていた。しかし、これまでの精神疾患脳画像を用いた機械学習研究では、限られた疾患群と健常群のデータを用いた研究がほとんどで、多施設・プロトコルデータにおいて機械学習器の応用はこれからの課題だった。また、開発された機械学習器を異なる臨床病期のデータ、例えば発症リスクや発症初期の方に当てはめ、その性能を評価することは行われていなかった。特に発症前後では、診断を確定することが難しい場合が多く、治療方針の確定が困難なケースがある。臨床現場で判断が難しい場合に、客観的な診断補助の機会があれば、より適切な治療に結び付けられる可能性がある。

そこで研究グループは今回、磁気共鳴画像()の脳構造画像データを用いて、「慢性期統合失調症、健常対照の2つをわける機械学習器を開発」し、「この機械学習器にはどういった脳構造特徴が重要か」を明らかにすることにした。そして、「機械学習器判別と重症度の相関を検討」し、「この機械学習器開発には使用していない独立した異なる統合失調症臨床病期(精神病ハイリスク、初回エピソード精神病)及び発達障害の脳構造画像を当てはめ、この機械学習器が疾患群と健常群を判別できるか」を検討した。

機械学習器の精度は独立確認データセットで76%、早期の疾患群・発達障害群にも応用可

まず、慢性期統合失調症83人、健常対照113人の研究参加者から計測された脳構造画像(テストデータセット)をCAT12という解析ソフトウェアを用いて、全脳の灰白質を抽出し、計55万4,992の脳構造特徴変数を求めた。PythonのSkLearnライブラリにあるサポートベクターマシーン(SVM)を用いて機械学習器を構築し、異なるプロトコルで撮られたデータセットを用いて、機械学習器の性能を評価した。

機械学習器は判別率のほか、各疾患群で症状が重症であるほど、判別がより疾患寄りになるかの関係も評価した。また、独立サンプルとして、精神病ハイリスク27人(数年間で統合失調症発症リスクが20%程度あるといわれている群)、初回エピソード精神病24人(精神病症状[幻覚、妄想など]を発症してまもない群)及び発達障害64人の研究参加者から計測された脳構造画像(独立確認データセット)を、同様の方法で脳構造特徴変数を求め、開発された機械学習器に当てはめた。

その結果、機械学習器の精度はテストデータセットで75%だった。さらに、独立確認データセットでも76%と精度を維持した。両側淡蒼球と下前頭回三角部は、慢性期統合失調症の分類に重要な特徴量を示した。統合失調症臨床病期群は、発達障害群と比較して慢性期統合失調症として分類された(慢性期統合失調症への分類率:精神病ハイリスク、41%;初回エピソード精神病、54%;慢性期統合失調症群、70%;発達障害群、19%;健常者群、21%)。

機械学習器の予測情報が鑑別診断や治療予測などのマーカーとして応用されることに期待

今回の研究により、多施設、異なるMRI機種や計測パラメータで得られた脳画像を用いて、慢性期統合失調症、健常対照の2つの群を分ける機械学習器が開発された。それを独立した異なる統合失調症臨床病期のデータに当てはめ、性能を検証した世界初の研究となる。

機械学習器の予測情報は、神経画像技術を臨床鑑別診断に適用し、疾患の発症を早期に予測するのに役立つ可能性がある。これまでの精神疾患脳画像を用いた機械学習は、同一施設・プロトコルにより計測されたデータを使用し、機械学習器を構築するものだった。しかし、臨床現場では新規の対象において、精神病リスクまたその発症について早期発見及び鑑別診断が求められている。同研究で得られた機械学習器の予測情報は、鑑別診断や治療予測などのマーカーとしての応用が期待される。

今後は統合失調症及び発達障害の病態解明、MRIデータへの応用を目指す

また、この機械学習器は、これまで統合失調症の脳病態と考えられてきた淡蒼球や下前頭回三角部などの重要性を改めて指摘した。これまでの機械学習研究では、既存の脳画像研究成果と整合性が取れず、その信頼性が疑問視されている部分があった。今回の機械学習器では、既存の脳画像研究成果との整合性も取れており、今後、機械学習解析を利用したさらなる病態解明も期待される。

「今後は、多施設共同研究データで得られた脳画像で多疾患について、どのような手法を用いれば良いのか、といった検証を重ね、統合失調症及び発達障害の病態解明、また一般的な医療機関で計測されるMRIデータへの応用を目指していきたいと考えている」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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