JACSM1万7,099人の情報を解析
国立循環器病研究センターは3月28日、持続するtype IIエンドリークが腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術を施行された患者の予後や合併症に及ぼす影響を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター心臓血管外科の清家愛幹医長、松田均部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Circulation」に掲載されている。
画像はリリースより
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腹部大動脈瘤(AAA)に対する手術治療は、開腹による人工血管置換術が標準治療とされていたが、2006年7月に低侵襲なカテーテル治療であるステントグラフト内挿術(EVAR:endovascular aneurysm repair)が薬事承認され、高齢者を中心に広く実施されるようになった。新しい治療法であることから、長期成績については評価が定まっていない。特に、元々大動脈瘤から分枝していた動脈から、ステントグラフトによる治療後に血液が大動脈瘤内に逆流するtype IIエンドリークについては、学会でも見解の一致を見ていない。欧米では生命に及ぼす危険性は少ないと考えられることが多い一方で、日本では予防や治療を積極的に行う傾向があり、type IIエンドリークの影響を明らかにすることが必要とされている。
日本血管外科学会を基盤とする血管外科系諸学会が協力して構築した、ステントグラフト実施基準委員会The Japan Committee for Stentgraft Management(JACSM)には、日本で行われている全てのステントグラフト治療の成績が登録されている。参加施設は、術前の患者の状態や大動脈瘤の形態、術後の合併症・生死やCTの所見などのデータを術後10年まで報告している。この膨大なデータから、2015年12月までに通常の状態で退院した75歳以下の患者2万1,283人を抽出し、登録データが揃っていた、1万7,099人(男性90.6%、平均年齢68.1±5.3歳)について、今回解析した。
解析ではtype IIエンドリークを認めた4,957人と認めなかった1万2,142人について、大動脈瘤の拡大、再治療、大動脈瘤に関連した死亡、大動脈瘤破裂の発生率を比較。さらに、背景を一致させた(プロペンシティスコア マッチング)それぞれ4,957人でも同じ比較を行った。
エンドリークを認めた場合、再治療、大動脈瘤拡大/破裂/関連死の発生率「高」
解析の結果、大動脈瘤の拡大、再治療、大動脈瘤に関連した死亡、大動脈瘤破裂の発生率は、エンドリークを認めた場合に高く、マッチングした後の比較でも同様の結果であることが確認された。
また、ステントグラフト治療の目的は大動脈瘤の拡大防止だが、治療後に大動脈瘤が拡大する原因として、高齢、女性、大動脈瘤のすぐ上の大動脈の直径が大きいこと、腎不全の合併が確認された。
type IIエンドリークは放置できない問題、予防・治療法の確立を
今回、新しい治療法であるステントグラフト治療の長期成績を解析して、type IIエンドリークは放置できない問題であることがわかった。そのため、必要性が疑問視されていたその予防や治療の方法を確立する必要がある。対処法として、下腸間膜動脈や腰動脈などをステントグラフト治療の前や治療と同時に塞ぐ「塞栓術」がすでに試みられおり、今後はその効果を検証する必要があるという。
また、type IIエンドリークにより、ステントグラフト治療の目的を果たせない可能性が高い要因が確認された。このことから、これらの要因がある場合には、元々標準的に行われていた開腹による人工血管置換術を行うかどうかも検討する必要がある、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース