NDBや全国初回献血者集団等のリアルデータベース、政府の公表統計資料、大規模血清疫学調査から得た成果をもとに
広島大学は3月17日、日本における2015年時点の肝炎ウイルス持続感染者数の算出と2035年までの動向を予測した結果を発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の田中純子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Regional Health-Western Pacific」に掲載されている。
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B型肝炎ウイルス(HBV)・C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染は、肝硬変・肝がんの主病因であり、死亡リスクを上昇させる。2019年時点、WHOは世界で2億9600万人がHBVに、5800万人がHCVにそれぞれ持続感染しており、それが世界人口の4.4%に相当すると推定している。
日本における肝炎ウイルス持続感染者数は、2000年時点で300~366万人、2011年時点で209~284万人と、厚労省肝炎疫学研究班から報告されている。HBワクチンの普及や、ウイルス排除が可能なHCV DAA治療薬の開発と普及により、WHOは2030年までのウイルス肝炎撲滅の目標を2016年に掲げた。日本の肝炎ウイルス対策への歴史は長く、1986年から開始したHBV母子感染防止事業や、2002年から開始された老人健康事業/健康増進事業による住民健診への肝炎ウイルス検査、2008年に開始した肝炎医療費の公的助成など、世界に先駆けて実施している。今後10年以内にウイルス肝炎撲滅を達成可能な主要国の一つに、日本が含まれている。
今回、研究グループは、National database(NDB)や全国初回献血者集団等のリアルデータベース、政府の公表統計資料および、大規模血清疫学調査から得た成果をもとに、2015年時点のHCV・HBVの持続感染者数を算出。また、2035年までの予測を実施した。
特にHCVは急速に減少、2030年21~48万人と推定
研究の結果、2015年時点の肝炎ウイルス持続感染者数は191~249万人(HCV:87~130万人、HBV:103~119万人)。また、持続感染者のうち、98万人(HBV:33万人、HCV:65万人)が患者として病院受診しているが、68万人(HBV:45万人、HCV23万人)は検査を受けておらず、25~83万人(HBV:25~42万人、HCV:0~41万人)は検査陽性の通知を受けたが、病院受診をしていないことが示された。
将来推計では、2015年以降、肝炎ウイルス持続感染者数は減少する見込みだ。特に、HCVは急速に減少し、2030年には、21~48万人、2035年では14~35万人と推定された。
なお、この推計値は、肝炎ウイルス検査、医療機関受診や治療導入を抑制する可能性のあるCOVID19のパンデミックに対応する日本政府による制限措置など、さまざまな状況によって影響を受ける可能性があるため、ウイルス肝炎の対策の有効性と目標に向けた進捗の評価のためには、肝炎ウイルス持続感染者数の継続的な把握と予測が必要だとしている。
HBV・HCV持続感染者数の推移モニタリングを継続
研究により、日本は、2030年のウイルス肝炎撲滅に向けて前進していることが示された。一方で、「検査未受検のC型肝炎ウイルス持続感染者を有効な抗ウイルス治療に結びつけることに力を入れるべき」、と研究グループは述べている。また、B肝炎ウイルス排除可能な新治療薬の開発が不可欠だ。
研究グループは、引き続きHBV・HCV持続感染者数の推移をモニタリングし、受検・受診・受療や治療著効率に影響を与える新しい状況を想定して、資料の提示を行う予定だ、としている。
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・広島大学 研究成果