「薬剤抵抗性」残存細胞に対する有効な治療法は未確立
がん研究所は3月17日、実験的に樹立したALK阻害薬ロルラチニブ抵抗性の残存細胞が、GSK3阻害剤に対して高い薬剤感受性を示すことを見出したと発表した。この研究は、がん研究会がん化学療法センター基礎研究部の片山量平部長、清水裕貴氏(同研究部所属、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程大学院生)らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Precision Oncology」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
肺がんの半数以上を占める肺線がん患者の3~5%ではがん化を促進するドライバーがん遺伝子であるALK融合遺伝子が認められている。ALK陽性肺がん患者に対する治療薬として、現在5種類のALK阻害薬が承認されており、その中でも第2世代ALK阻害薬アレクチニブが1次治療薬として広く用いられている。また、近年では、主に2次治療以降で用いられている第3世代ALK阻害薬ロルラチニブが、ALK陽性肺がん患者に対する1次治療薬としても承認され、ロルラチニブを含む5種類のALK阻害薬すべてが1次治療で使用できるようになった。しかし、これらALK阻害薬による治療後、ほとんどの患者において、ALKキナーゼ領域内に薬剤結合親和性を低下させるような変異が生じるなど多様な機構を介して獲得耐性が出現することが示唆されている。
近年、薬剤耐性獲得がん細胞が出現する原因として、まず治療後にごくわずかな一部の細胞(薬剤抵抗性残存細胞)が残存することが考えられている。しかし、これら薬剤耐性を獲得する前段階のがん細胞(薬剤抵抗性残存細胞)がどのような機構で生き残るかは十分に明らかになっておらず、これら薬剤抵抗性残存細胞に対する有効な治療法は確立されていない。
ALK阻害薬+GSK3阻害剤併用、患者胸水から樹立した抵抗性細胞の数を顕著に減少
今回研究グループは、初めに、ALK陽性肺がん患者の胸水より細胞株を複数樹立。その中で、ALK阻害薬に感受性を示す患者由来細胞株JFCR-028-3をロルラチニブに比較的短期間暴露させることで、ロルラチニブに対して可逆的な耐性を示すロルラチニブ抵抗性残存細胞を樹立した。
樹立したJFCR-028-3のロルラチニブ抵抗性残存細胞に有効な阻害剤を探索するため、約90種類の既承認薬や臨床試験中の薬剤を中心として構成された阻害剤ライブラリーを用いたスクリーニングを実施。その結果、GSK3阻害剤LY2090314とロルラチニブを併用することにより、JFCR-028-3ロルラチニブ抵抗性残存細胞のより顕著な増殖抑制および細胞死誘導を示すことが明らかとなった。JFCR-028-3細胞にロルラチニブとGSK3阻害剤を最初から処理したところ、1週間後に残存してくる抵抗性細胞の数が顕著に減少することもわかった。
また、実際にアレクチニブ治療後に耐性となったALK陽性肺がん患者より樹立された獲得耐性細胞に対して、上記と同様の薬剤ライブラリースクリーニングを行った結果、GSK3阻害剤をロルラチニブに併用することで、増殖抑制効果が見られた。
GSK3阻害剤、薬剤耐性がんの患者に対する前臨床および臨床試験による検討が必要
今回の研究により、GSK3阻害剤が、ロルラチニブ抵抗性残存細胞を抑制することで、ロルラチニブ獲得耐性細胞の出現自体を抑制する可能性を示唆された。「現在、GSK3阻害剤はアルツハイマー型認知症の治療薬として臨床試験が行われているが、薬剤耐性がんの患者に投与した際の有効性や安全性を明らかにするためには、前臨床および臨床試験によるさらなる検討が必要だ」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・がん研究所 ニュースリリース