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ネガティブな結果を回避する行動に、セロトニン神経伝達機能が関与-量研ほか

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2022年03月25日 AM11:00

ネガティブな感情に関与する「行動抑制系」の脳内メカニズムは不明だった

(量研)は3月22日、罰を回避する行動にセロトニン神経伝達機能が関わっていることを発見したと発表した。この研究は、量研量子生命・医学部門量子医科学研究所脳機能イメージング研究部(主は量子生命科学研究所量子認知脳科学グループ)の山田真希子グループリーダー、および千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学の小島一歩医師、平野成樹診療准教授、桑原聡教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Imaging Behavior」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトを含む動物の行動の基本的な特徴は、報酬への接近と罰の回避の2つに大きく分類されると古くから議論されてきた。ヒトにおいては、この2つの動機づけシステムによって、個人の気質・性格が特徴付けられると考えられている。行動賦活系は、ポジティブな結果(報酬)につながる行動を促進し、希望・高揚・幸福などのポジティブな感情に関与している。一方、行動抑制系はネガティブな結果(罰)につながる行動を抑制し、恐怖・不安・欲求不満・悲しみなどのネガティブな感情に関与している。

ネガティブな感情を持ち続けると、やがて不安障害やうつ病、疼痛障害といった精神疾患を発症してしまう場合がある。新型コロナウイルス感染症の発生などを背景に、うつ病患者数や自殺者数の増加が社会問題となる中、政府の研究開発推進事業の中には、精神的に豊かで躍動的な社会を実現するため、心の安らぎや活力の増大をかなえる科学技術の確立が掲げられている。

報酬を動機としてさまざまなことに躍動的にチャレンジする行動賦活系は、ドーパミンの働きと関係していることが知られているが、行動抑制系に関しては、脳内分子・神経メカニズムは明らかにされていない。行動抑制系の脳内メカニズムが明らかになれば、不安障害やうつ病、疼痛障害など行動抑制系の働き過ぎによる精神症状のメカニズムについての理解が進み、脳内分子・神経メカニズムに基づく治療戦略を創出することができる。また、2つの動機づけシステムからなる人間の気質を、脳科学的な特徴に基づき評価することができるようになる。

これまでの研究で、脳内に広く分布しているセロトニン2A受容体は、不安、、痛みなどの負の感情の調節に関与していることが報告されている。そこで研究グループは今回、行動抑制系の脳内メカニズムを明らかにするために、負の感情に関わる脳部位のセロトニン2A受容体密度と罰回避傾向の個人差との関連性を調べた。

中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合が弱いと、罰への感受性が高い

健常成人16人に、脳内のセロトニン2A受容体に結合する[18F]アルタンセリンという放射性薬剤を用いたPET検査、安静時fMRI検査、罰の回避と報酬への接近の感受性尺度、ベック絶望感尺度、状態不安尺度を用いた質問紙検査を行った。質問紙検査の結果、罰への感受性が高い人ほど、絶望感と不安が高いことが判明した。

次に、PET解析結果から、罰への感受性と中帯状皮質前方部のセロトニン2A受容体密度は負の相関を持ち、罰への感受性が高い人はセロトニン2A受容体密度が低いことがわかった。さらに、中帯状皮質前方部のセロトニン2A受容体密度は中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合の強さと正の相関を示すことから、中帯状皮質前方部のセロトニン2A受容体密度が低いと、中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合が弱いということが判明した。中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合は、負の感情の制御に関わっていることが知られている。

また、中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合は罰への感受性と負の相関を示すことから、「中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合が弱いと、罰への感受性が高い」ということが明らかになった。

罰への感受性とセロトニン2A受容体密度の関係に、中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合が影響

さらに、これら三者(罰への感受性、セロトニン受容体、機能的結合)の因果関係を明らかにするため媒介解析を行った結果、罰への感受性とセロトニン2A受容体密度の関係に、中帯状皮質前方部と中前頭回の機能的結合が影響していることが明らかになった。

チャレンジする活力を増大する科学技術の創出に期待

今回の研究成果により、罰感受性が高く行動抑制系が働きやすい気質の人は、負の感情を制御することで知られる中帯状皮質前方部と中前頭回の脳ネットワークの働きが弱く、中帯状皮質前方部セロトニン2A受容体密度が低いということが明らかにされた。この結果から、、疼痛障害など、行動抑制に関連する症状には、セロトニン神経伝達の機能を調節する薬剤が有効である可能性が示唆された。

「今後、セロトニン神経伝達の機能を調節する薬剤を用いた介入研究を行い、本研究で得られた動機づけ特性と分子機能および脳機能との関係を解明することは、さまざまなことにチャレンジする活力を増大する科学技術の創出につながると期待される」と、研究グループは述べている。

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