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DUV-LEDで、エアロゾル中の新型コロナウイルスの高速不活化に成功-東大医科研ほか

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2022年03月24日 AM11:45

DUV-LEDによるSARS-CoV-2エアロゾルの不活性化効果・定量的評価は行われていなかった

東京大学医科学研究所は3月18日、小型・高出力、発光波長265nm帯の深紫外発光ダイオード()を用いることで、液体中ならびにエアロゾル中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を迅速に不活性化できることを実証したと発表した。この研究は、同研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授ならびに国立研究開発法人情報通信研究機構の井上振一郎室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「mSphere」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

SARS-CoV-2によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症()の世界規模での流行が続いている。COVID-19の感染経路の一つとして、エアロゾル感染の存在が明らかになってきているが、エアロゾル化したウイルスに対しては液体薬剤の使用が有効ではないため、感染対策上、大きな課題が残されていた。このような状況のため、深紫外LED照射によるウイルスの不活性化に大きな期待が寄せられている。しかし、従来の深紫外LEDの光出力は数十mW程度と小さく、迅速に高い不活性化率を達成するには不十分だった。また、SARS-CoV-2エアロゾルに対する深紫外LEDの定量的な照射効果についても明らかにされていなかった。

COVID-19の感染経路の一つとして、エアロゾル感染の存在が明らかになってきている。エタノールなどの液体薬剤はSARS-CoV-2に対して顕著な不活性化効果を示すことから、物体表面の除染等に広く使用されている。しかし、液体薬剤を使用することができない条件やSARS-CoV-2エアロゾルに関しては有効な不活性化方法が確立されておらず、感染対策上の課題として残されている。

深紫外(DUV)半導体発光ダイオード(LED)を用いた光照射は、化学物質を使わずにウイルスや微生物を不活性化する技術として注目されている。ウイルスや微生物の光不活性化にはUV-Cと呼ばれる100~280nmの波長域の光照射が効果的であり、特に、DNAやRNAの吸収極大波長とほぼ重なる265nm付近の光照射が最も高い効果が得られる。LEDは、水銀ランプなどのガス放電型紫外線ランプに比べて、発光波長の調整性が高く、小型、シングルピークでの発光、低駆動電圧、ウォームアップ時間が不要、水銀不使用による環境負荷が少ないなどの多くの利点がある。

これまで紫外線光源として産業的には主に水銀ランプが用いられてきたが、水銀廃絶に向け2017年に「水銀に関する水俣条約」が発効し、その代替光源としてDUV-LEDが期待されている。しかし、従来のDUV-LEDの光出力は、水銀ランプに比べて非常に弱く、市販されている265nm帯DUV-LEDの出力(約50mW)では、SARS-CoV-2に対する不活性化効果は認められるものの実用に十分な効率とは言えなかった。また、これまで光照射技術を用いたSARS-CoV-2に対する不活性化効果の評価については、試験皿内のウイルス懸濁液を用いた条件に限られており、DUV-LEDによるSARS-CoV-2エアロゾルに対する不活性化効果ならびに定量的評価についても行われていなかった。

高出力265nm帯DUV-LEDを開発、エアロゾル中のSARS-CoV-2に対する光不活性化効果を定量的に検証

研究グループは今回、波長265nmの発光ピークを示す高出力な窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系DUV-LEDを開発し、液体中ならびにエアロゾル中のSARS-CoV-2に対する光不活性化効果を定量的に検証した。従来のAlGaN系DUV-LEDの低出力の主な原因だった極めて低い光取出し効率の問題を改善するために、井上らが以前に実証した窒化アルミニウム(AlN)基板上LEDに対するナノフォトニック光取出し技術をさらに発展させ、シングルチップLEDあたりの光出力を増加させることで、高出力265nm帯DUV-LEDの開発に成功した。

作製したDUV-LEDは、室温・連続駆動の条件下で従来市販DUV-LEDの約10倍の500mWを超える出力が観測され、これまでに報告されているシングルチップのUV-C領域のDUV-LEDにおいて最も高い出力を示した。液体中のSARS-CoV-2に対するDUV-LEDの不活性化効果を調べるため、スライドガラスの上にSARS-CoV-2懸濁液を円形に広げ、真上からDUV-LED光を照度54mW/cm2で照射した。

DUV-LED照射はウイルス懸濁液と比べ、ウイルスエアロゾルに約9倍有効

ウイルス懸濁液を回収し、プラークアッセイを用いてウイルス力価を測定すると、ウイルスの感染力は照射0.167秒後に1/1000、0.270秒後に1/10000、0.387秒後に1/100000に減少。各タイムポイントにおける照射光量は、それぞれ9.02mJ/cm2,14.58mJ/cm2および20.90mJ/cm2であり、DUV-LED光によるSARS-CoV-2懸濁液のD99.9は9.02mJ/cm2だった。続いてSARS-CoV-2エアロゾルに対するDUV-LEDの効果を調べるため、バイオセーフティレベル3施設の安全キャビネット内にウイルスエアロゾルの解析が可能な試験チャンバーを設置した。

試験チャンバー内にはネブライザーを用いてSARS-CoV-2を含むエアロゾル(94.9%以上の粒子が直径2μm未満)を生成し、DUV領域の光透過性の極めて高い合成石英で作製された管を介してエアロゾルをエアサンプラーで採取した。DUV-LED照射システムは合成石英管内を通過するエアロゾルを石英管の外側から光照射できるように設置され、エアサンプラーの吸引流量を調整することでエアロゾルが照射領域を通過する時間(照射線量)を制御した。エアロゾル化したSARS-CoV-2は、DUV-LED照射により、0.0043秒(0.23mJ/cm2)後に1/10、0.0074秒(0.40mJ/cm2)後に1/100、そして0.019秒(1.04mJ/cm2)後に1/1000にまで急速に不活性化された。SARS-CoV-2エアロゾルのD99.9に必要な総線量は1.04mJ/cm2であり、DUV-LED照射は、ウイルスエアロゾルに対しては、ウイルス懸濁液に比して約9倍有効であることが示された。

DUV-LEDをエアコンなどに組み込み、エアロゾル中のSARS-CoV-2を迅速に不活性化できる可能性

今回の研究では、高出力DUV-LEDの照射効果を定量的に検証するために、石英管の内径サイズ(20mm)と同じ、直径約20mmの範囲で光照射量が均一になるようにLED・レンズ光学系を調整し、試験サンプルと光学系との距離(ワーキングディスタンス)を550mmで固定して実験を実施。LED光源の照射範囲ならびに照射距離についてはDUV-LEDのチップ数、出力、照射時間等を調整することで、使用用途に応じた最適化が可能だという。DUV-LEDのウイルス不活性化用途における実用化の際には、人体への安全性を確保するために、皮膚や目への直接の照射を避ける運用が必要となる。ウイルスエアロゾルの不活性化に対しては、空気清浄機やエアコン等の内部に組み込むなど、安全な遮蔽機構を有する製品を開発し利用していくことが有望だとしている。

同研究成果により、波長265nm帯のシングルチップ500mW高出力DUV-LED照射システムを用いることで液体中およびエアロゾル中のSARS-CoV-2を迅速に不活性化できることが実証された。

「265nm高出力DUV-LEDは、低コスト・高効率に物体表面の殺菌に利用できるほか、空気清浄機やエアコンに組み込むことで、エアロゾル中のSARS-CoV-2の迅速な不活性化を実現し、感染拡大の防止や公衆衛生の向上に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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