腸内細菌叢が新型コロナウイルスの感染、COVID-19感染症の発症にどう関与するのかは不明だった
東京大学は3月17日、主に軽症のSARS-CoV-2感染患者を対象に、新型コロナウイルス罹患後の感染者の腸内細菌叢と血中の炎症状態の相関について解析を行った結果、健常者と比較すると、感染者では入院直後から腸内細菌叢の著しい変化が観察されるとともに、一部の細菌の動きは病態の重症化と関係が知られるIL-6関連分子などの複数の血中の炎症性サイトカインの上昇と相関していることが明らかになったと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科の水谷壮利特任准教授と同大医科学研究所 附属先端医療センター感染症分野の四柳宏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Microbiology Spectrum」オンライン掲載されている。
画像はリリースより
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ヒトの腸内細菌叢は免疫の維持に関与し、健康にとって不可欠な存在であることが知られている。さらに腸内細菌叢を構成する細菌の種類とバランスの変化は、がんや、糖尿病といった多くの病気の発症に関与することがわかりつつある。ウイルス感染症においても、SARS-CoV-2感染と病気の発症には人の体内に共生するさまざまな微生物の影響を受けていることが報告されており、感染によって腸内細菌叢の種類とバランスが崩れることも知られている。それは腸肺軸という概念で、生理学的に消化管と呼吸器(肺)は密接に関係していることが理由だ。COVID-19は主に呼吸器に症状が見られたが、下痢や吐き気などの消化器症状がしばしば認められ、ウイルスが腸内で検出されることも知られている。しかし、SARS-CoV-2の感染に腸内細菌叢がどのように影響するのか、またCOVID-19感染症の発症にどのように関与するのかは不明な点が多くある。
COVID-19患者の腸内細菌叢の組成は経過中に変化
研究は2020年2~8月にかけてRT-qPCRでCOVID-19罹患を確認し、研究協力の意思を示した入院患者22人の血液と便のサンプルを入院初期と退院前、退院から1か月後に採取した。研究に登録された患者は全て武漢株および武漢/D614G株に感染していた。非COVID-19対照コホートは、COVID-19パンデミック前の2017年に東京大学医科学研究所で募集した40人の健常成人の便検体を用いた。COVID-19患者は女性3人と男性19人から成り、年齢中央値は42歳(範囲、18~67歳)だった。重症度分類では,軽症7例、中等症12例、重症3例(13%)であり、酸素吸入を必要とした症例はなかった。
COVID-19患者の腸内細菌叢の組成が経過中に変化
研究は2020年2~8月にかけてRT-qPCRでCOVID-19罹患を確認し、研究協力の意思を示した入院患者22人の血液と便のサンプルを入院初期と退院前、退院から1か月後に採取した。研究に登録された患者は全て武漢株および武漢/D614G株に感染していた。非COVID-19対照コホートは、COVID-19パンデミック前の2017年に東京大学医科学研究所で募集した40人の健常成人の便検体を用いた。COVID-19患者は女性3人と男性19人から成り、年齢中央値は42歳(範囲、18~67歳)だった。重症度分類では,軽症7例、中等症12例、重症3例(13%)であり、酸素吸入を必要とした症例はなかった。
まず、COVID-19発症から回復までの腸内細菌叢の変化を調べるため,患者から得られた便サンプルを採取日により発症7日以内(10サンプル)、8~14日(17サンプル)、15~21日(7サンプル)、21日以降(6サンプル)の4群に分類し,細菌叢のもつ16S rRNAシークエンス解析を実施した。発症直後から腸内細菌叢は徐々に変化し、症状発現後8~14日目に最も大きな変化が観察された。ヒトの腸内で存在する4つの主要な門(細菌グループ)であるファーミキューテス、プロテオバクテリア、バクテロイデテス、アクチノバクテリアの中で、COVID-19患者ではファーミキューテス門の存在量が、発症から8~21日目に減少のピークが見られ、その後に回復していた。その他の3門に関しては、発症2~3週にかけて徐々に増加が観察された。つまり、感染後、患者体内(腸内)では門レベルの大きなグループでの動きが起きていることが明らかになった。
腸内細菌叢の変化が免疫反応に寄与している可能性があることから、患者の血漿中サイトカイン濃度と腸内細菌叢の変化との相関解析を行った。その結果、ファーミキューテス門に属するフィーカリバクテリウム属とクロストリディア網の存在量が患者腸内で減少した際、IL-8およびIFN-γが上昇するという逆相関の関係を示した。またアクチノバクテリア門の上昇は、IL-6と関連するgp130/sIL-6Rbレベルと正の相関が観察された。以上の観察は、感染後に観察される一部の細菌の動きは患者体内で感染に伴って引き起こる炎症と関連があることが示唆された。
COVID-19の発症・病態理解や重症化の予測と予防への貢献に期待
COVID-19患者の腸内細菌叢の組成は入院中に経時的に変化し、ファーミキューテス門に属する細菌群(腸管の恒常性の維持に関わるとされる)が減少する一方、フソバクテリア、大腸菌など悪環境を示唆する一部の細菌の上昇も観察された。このような腸内細菌叢の変化は、Leaky gutと呼ばれる腸管透過性の上昇を誘発し、細菌や毒素が循環系に入り込み、全身性の炎症反応へとさらに悪化させる可能性がある。
「今回観察された一部の腸内細菌叢の変化は炎症性サイトカインのレベルと相関していることから、この知見は、COVID-19患者で観察された特定の腸内細菌叢の時間的変化を含め、病態と腸内環境の関連性を理解することの重要性、およびその必要性を強調するものだ」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース