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成人の睡眠を16パターンに分類することに成功、大規模睡眠解析で-東大ほか

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2022年03月18日 AM10:00

睡眠を簡便に測定し定量的に解析できれば、個別の生活改善指導・医療が可能に

東京大学は3月10日、独自に開発した腕の加速度から睡眠・覚醒状態を判別する機械学習アルゴリズム「」を用いて、英国のUK Bio bankにある約10万人の加速度データを睡眠データに変換し解析した結果、16種類の睡眠パターンに分類できることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学分野の上田泰己教授(理化学研究所生命機能科学研究センター合成生物学研究チーム チームリーダー兼任)、香取真知子氏(修士課程2年(研究当時))、史蕭逸助教(理化学研究所客員研究員兼任)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences; PNAS」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

「昼間に活動し、夜間に7時間程度眠る」といった睡眠の基本的な構造は、ヒトという生物種内で保存されており、睡眠のパターンはある程度遺伝的に決まっている。しかし、この睡眠の基本構造は環境要因によって、一過性または慢性的に変化することが知られている。特に、ライフスタイルの多様化により、現代人はさまざまな睡眠パターンを取るようになっている。電気の普及で夜間の活動も可能になり、また、カフェインやアルコールなどを摂取することで、一時的に睡眠時間や、睡眠のタイミングを制御することが可能になってきた。

しかし、このような睡眠習慣の多様化には、健康面に関するリスクが伴う。例えば、夜型の人は、朝から学校や会社に行くという社会的な義務感から平日の睡眠時間が短くなり、平日と休日で睡眠時間が異なる傾向がある。これは「社会的時差ぼけ」と呼ばれ、肥満や高血圧、精神的なストレスなど健康への悪影響が懸念されている。さらに現代人の60~70%は満足な睡眠が取れていないと感じており、その一部は中途覚醒や入眠困難を特徴に持つ不眠症と診断されている。中途覚醒や入眠困難などの睡眠パターンはPSG測定と呼ばれる脳波などの測定により正確に調べることができるが、装置が煩雑なため、日常的な睡眠状況の把握には適していない。

一方で、不眠症の診断には週単位の睡眠パターンを把握することが必要だが、現在は睡眠日誌や問診など、主観的な指標による診断が中心となっている。もし、簡便かつ正確に長期間(1週間以上)の睡眠測定が可能な手法が開発され、その結果を定量的に解析することができれば、睡眠パターンの分類から不眠症などの症状の分類によって、診断をより詳細にすることができる。さらに、治療前後の差を比較することで、治療の効果を正確に見積もることが可能となる。一人ひとりの睡眠を簡便に測定し、それらを定量的に解析することで、社会的時差ぼけや不眠症などの睡眠パターンに分類することができるようになれば、個別対応型の生活改善指導や、医療が可能になると期待される。

腕の加速度から睡眠・覚醒状態を高精度に判定するアルゴリズム「ACCEL」で大規模睡眠解析を実施

UK Bio bankにある約10万人の腕の加速度データは、英国を中心に30~50代の男女を対象に、リストバンド型の加速度センサーを用いて最長で7日間の加速度測定を行ったもの。研究グループは今回、このデータに着目。2022年に開発した腕の加速度から睡眠・覚醒状態を高精度に判定するアルゴリズム「ACCEL」を用いて、加速度データから約10万人の睡眠データを生成した。得られた睡眠データを21の睡眠の指標に変換し、次元削減法とクラスタリング法を用いて、睡眠のパターンを8種類のクラスターに分類。その中には、社会的時差ぼけに関連するクラスターや、中途覚醒を特徴に持ち不眠症と考えられるクラスターも含まれており、生活習慣、睡眠障害のそれぞれに関連があるクラスターを抽出することができたという。

16の睡眠パターンを確認、睡眠障害との関連が疑われる新しい睡眠パターンも

次に、睡眠障害に関連がある睡眠パターンをより詳細に調べるため、21の睡眠指標のうち睡眠障害に関係が深いことが知られる、睡眠時間や中途覚醒時間などの6指標に着目した。いずれかの指標が、一般的な睡眠から大きく外れるデータ(全体の分布における上位2.28パーセンタイル以上、もしくは下位2.28パーセンタイル以下をとるデータ)に同様の解析を適用することで、新たに8種類のクラスターに分類した。この中には、朝型や夜型に関連するクラスターが含まれている。さらに、複数の不眠症に関連するクラスターを特定し、全データを用いたクラスタリングと合わせて、不眠症に関連する睡眠パターンを7種類に分類。これらの結果から、大規模かつ長期間の睡眠を解析することで、現代人の睡眠構造のランドスケープ、つまり、現代人の睡眠構造が16のクラスターに分かれることが初めて明らかになった。

同研究により、長期間の測定データを利用することでPSG測定では判定が困難な「社会的時差ぼけ」や朝型/夜型といった生活習慣に関連するクラスターを定量的に分類することが可能となった。また、睡眠障害に関係する可能性が高いデータを詳細に解析し、睡眠パターンを分類したところ、不眠症に関連する7種類のクラスターが明らかになった。これらのクラスターは、従来と異なる新しい指標に基づいて分類されており、不眠症の診断、治療法の提案の面において、新たな手法の構築に役立つことが期待される。

睡眠障害の診断基準の提案や、睡眠障害の自動診断・新規治療法の開発に期待

今回の研究成果により、睡眠パターンを合計16のクラスターに分類することができ、その中には睡眠障害に関連する可能性のあるクラスターも含まれていることが明らかにされた。今後、実際に睡眠障害と診断されている人の睡眠データを用いることにより、各クラスターと睡眠障害の関係性をより正確に解明し、定量的な指標に基づく新たな睡眠障害の診断パイプラインにつながることが期待される。また、同研究で不眠症に関連する睡眠パターンをサブタイプ分類できたことと同様に、他の既知の睡眠障害についてもサブタイプに細分化することができる可能性がある。これまで同一の病名で診断されていた睡眠障害がより詳細に分類されることにより、睡眠障害のサブタイプを考慮した上でのより適切な治療法の確立や、その背後にある遺伝的・環境的な要因の解明が促進されることが期待される。同研究で明らかになった睡眠パターンのクラスターは、睡眠と深く結び付いた心身の健康状態、例えば精神疾患の原因解明を促進する上でも、有益な情報となると期待される。

「今後、ウェアラブルデバイスなどの加速度センサーを用いた計測とACCELを用いた解析を進めていくことで、睡眠障害のより良い診断基準の提案や睡眠障害の自動診断方法の開発、さらには新しい治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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