医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 脳の進化の仕組みを、フェレットを用いた独自の研究技術で解明-金沢大ほか

脳の進化の仕組みを、フェレットを用いた独自の研究技術で解明-金沢大ほか

読了時間:約 3分4秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年03月17日 AM11:30

マウスよりも発達した大脳を持つ「フェレット」を用いた研究技術を世界に先駆けて開発

金沢大学は3月15日、これまで研究が困難だった脳の進化の仕組みを、独自の研究技術を用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系脳神経医学分野の河﨑洋志教授、新明洋平准教授、神経解剖学分野の堀修教授、革新ゲノム情報学分野の田嶋敦教授、ベルギーのマシュー・ホルト教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳が発達したことによって、ヒトは特有の能力を獲得したと考えられている。脳の中でも大脳は、高次脳機能に関わる最も重要な場所であり、さまざまな脳神経疾患や精神疾患などとも関連することから特に注目されている。大脳の発達に大きく関わっているのが、神経細胞やグリア細胞の増加だ。より多くの神経細胞やグリア細胞をバランス良く持つことにより、脳の働きを発達させることが可能になったと考えられている。しかし、研究で多く用いられるマウスの大脳は小さく、マウスを用いた研究が困難であることから、神経細胞やグリア細胞の増加の仕組みはあまりわかっていなかった。

研究グループは従来、マウスよりもさらにヒトに近い発達した大脳を持つ動物の研究が重要であると考え、高等哺乳動物フェレットを用いた独自の研究を推進してきた。フェレットを用いる研究技術が整っていなかったため、フェレットの脳を遺伝子レベルから研究するための技術を世界に先駆けて開発し、さらに、この技術を用いて神経細胞の増加の仕組みを解明するなど、高等哺乳動物を用いた脳研究でリードしてきた。

星状膠細胞の増加に重要な遺伝子「FGF1」「FGF2」を発見

今回、これまでに研究が遅れていたグリア細胞に着目し、グリア細胞の中でも、特に数が多い星状膠細胞の増加に重要な遺伝子を発見し、この遺伝子が脳の進化の鍵となったことを明らかにした。星状膠細胞は神経細胞と協調して脳機能に重要な役割を担っていることが知られており、ヒトの大脳では神経細胞の約1.4倍もの数の星状膠細胞が存在している。しかし、ヒトに至る進化の中で、星状膠細胞が増加してきた仕組みはわかっていなかった。

まず、マウスとフェレットのグリア細胞に発現する遺伝子を比較したところ、フェレットの星状膠細胞においてFGF1とFGF2が多く発現していることを発見した。FGF1とFGF2は、神経細胞や他のグリア細胞ではあまり発現しておらず、またマウスの星状膠細胞でもあまり発現していなかった。この結果から、FGF1とFGF2がフェレットの星状膠細胞で特別な働きを持っている可能性があると考えられた。

星状膠細胞におけるFGFの発現が星状膠細胞の増加に重要

FGF1とFGF2の重要性を明らかにするため、星状膠細胞を培養しFGFで刺激したところ、星状膠細胞の増殖が著しく促進された。反対にFGF受容体の阻害剤を用いたところ、星状膠細胞の増殖が著しく抑制された。培養実験に加え、実際にマウスの大脳の中でFGFを増やしたところ、培養実験と同様に星状膠細胞が著しく増加した。それに対し、神経細胞の数には変化が見られなかった。これらの結果から、星状膠細胞におけるFGFの発現が星状膠細胞の増加に重要であることが明らかになった。

星状膠細胞の増加が「脳回」の獲得に貢献する可能性

ヒトなどの発達した大脳の特徴として、大脳の表面に見られる「脳回」と呼ばれる皺が知られている。進化における脳回の獲得は脳機能の発達に重要と考えられているが、マウスの大脳には脳回がないことから、脳回が作られてくるための仕組みは不明な点が多く残されていた。そこで研究グループは、星状膠細胞の増加が脳回の形成を促進するのではないかと考えた。

脳回を持っていないマウスの大脳で星状膠細胞を増加させてみると、脳回に似た皺をマウスの大脳で再現することができた。反対に、脳回を持つフェレットの大脳で星状膠細胞を減少させると、脳回の形成が損なわれた。これらの結果から、星状膠細胞の増加が、脳回を持つことに貢献したと考えられた。研究グループは以前に、神経細胞の増加も脳回に関わることを報告しており、神経細胞および星状膠細胞が協調して増加することにより、ヒトに至る進化の歴史のなかで脳回の獲得につながったことが示唆された。

マウスで困難だった脳神経疾患の原因解明や治療法開発の発展に期待

今回、フェレットに関する独自の研究技術を用いて、大脳の進化における星状膠細胞の増加を司る仕組みが明らかにされた。これまでに大脳の進化における神経細胞の研究は行われていたが、星状膠細胞の研究は少なく、今回の発見は世界に先駆けた研究成果と言える。

「星状膠細胞はアルツハイマー認知症や精神疾患などにも関わると考えられていることから、本研究を発展させることにより、これまでのマウスを使った研究では困難だったさまざまな脳神経疾患の原因解明や治療法開発に発展することが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大