患者51人対象の臨床試験、術前治療としてFOLFIRINOX療法またはGnP療法約2か月間後に手術施行
名古屋大学は3月14日、進行膵がんに対する術前化学療法の安全性と有効性を確認したと発表した。この研究は、同大名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍外科学の江畑智希教授、同大医学部附属病院消化器外科一の山口淳平病院講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」オンライン速報版に掲載されている。
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膵がんでは、手術による切除が唯一の根治的治療法だ。しかし、切除後の5年生存率は全体で3割程度であり、満足のできる結果とは言えない。膵がんは、その進行度から、(1)切除可能膵がん、(2)切除可能境界膵がん、(3)切除不可能膵がんの3種類に分類できる。(1)に対しては膵がんの手術前および手術後に抗がん剤を投与する「補助化学療法」の効果が明らかとなり、標準的な治療法となりつつある(GS療法、およびS1療法)。(3)は切除できないので、化学療法もしくは放射線治療が用いられる。一方、(2)に対しては、どのような治療が最善なのか明らかではなかった。
また、近年では多剤併用化学療法が進歩している。主に、FOLFIRINOX療法およびゲムシタビン+ナブ-パクリタキセル(GnP療法)の2つの方法だ。(3)の患者に対してはこれらの多剤併用化学療法が用いられるが、これを(2)の患者の手術前に投与する意義は明らかではなかった。というのも、多剤併用化学療法は多くの副作用が発生するため、手術前に投与する事で手術の安全性を脅かす危険があり、手術までにがんが進行して切除できなくなる可能性もあり、また治療効果がどの程度高まるのかもわかっていなかった。
そこで今回の臨床試験(NUPAT-01)は、(2)の膵がん患者に対して多剤併用化学療法を手術前に行い、その安全性と治療効果を確認するために実施した。同臨床試験では、切除可能境界膵がん患者51人を対象に、術前治療としてFOLFIRINOX療法またはGnP療法を約2か月間行った後に手術を施行した。
手術後3年生存率54.7%、平均生存期間約40か月
まず、化学療法による副作用は、以前から知られていた範囲内であり、また46人(84%)は手術で膵がんを切除した。手術による合併症は13人(30%)に認められたが、死亡例はなかった。切除した標本を病理(顕微鏡)で確認すると、33人(67%)では膵がんが完全に切除されており、また2人ではがん細胞が完全に消えてなくなっていたという。
手術後の3年生存率は54.7%、平均生存期間は約40か月(3年4か月)だった。切除可能境界膵がんの切除後平均生存期間は10か月程度とされているので、今回の結果は非常に良好なものだったとしている。
また、FOLFIRINOXとGnPの比較では、全体としては生存率に差はなかった。切除後の膵がん再発までの期間(無病生存期間)は、FOLFIRINOXの方が良好だったという。
術後再発例もまだ多く、生存率向上に向けた取り組みが必要
今回の結果により、切除可能境界膵がんに対する術前の多剤併用化学療法は安全かつ有効であることがわかった。
研究グループは、「今後は、この治療法が標準治療となる見込み」とした一方で、「術後に再発する例もまだ多いのが現状であるため、例えば術前に放射線治療を追加するなど、さらなる生存率の向上に向けた取り組みが必要になる」としている。
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・名古屋大学 プレスリリース