バセドウ病で甲状腺に対する自己抗体が産生される機構を研究
大阪大学は3月5日、自己免疫寛容が破綻して自己抗体が産生される分子機構を解明したと発表した。この研究は、同大免疫学フロンティア研究センター/微生物病研究所の金暉特任研究員、荒瀬尚教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Science Advances」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
自己免疫疾患は、通常はウイルス等の病原体を攻撃するための免疫細胞が誤って自己の組織を攻撃してしまうことで生じる疾患。主要組織適合遺伝子複合体(MHC)は、T細胞にペプチドを提示することで免疫応答の中心を担っている分子だが、非常に遺伝子多型性に富む分子で、それぞれの個人で異なる組み合わせを持っている。また、個人がどの遺伝子型のMHCを持っているかで、自己免疫疾患の感受性に最も強く影響を与える分子であるため、MHCがどのように自己免疫疾患の発症に関与するかを解明することが重要だ。MHCはペプチド抗原をT細胞に提示することから、自己免疫疾患の原因はT細胞の異常だと長年考えられてきたが、依然として、自己免疫疾患の原因は明らかになっていない。
バセドウ病は自己免疫疾患の一つで、0.2~0.6%人が罹患すると報告されている。バセドウ病は甲状腺機能亢進症が見られる病気で、甲状腺に発現している甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体が産生され、自己抗体が甲状腺刺激ホルモン受容体を刺激することで、甲状腺の機能が亢進する。一方、MHCクラスII分子の遺伝子型はバセドウ病の感受性に最も強く関わっている遺伝子だが、MHCクラスII分子の遺伝子型がバセドウ病の発症に関与する分子機構は長年にわたって明らかになっていなかった。そこで、研究グループはMHCクラスII分子がどのようにバセドウ病の感受性に関与するか、甲状腺刺激性自己抗体がどのように産生されるかを解明することを目的として研究を実施してきた。
「TSHR+MHCクラスII分子」複合体に対し自己抗体が産生されると判明
今回、研究グループは、バセドウ病患者血清を用いて甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)との結合性を調べた。すると、特定のMHCクラスII分子(HLA-DP5)の存在下で、バセドウ病患者の自己抗体がTSHRを認識することが判明した。そこで、さまざまな遺伝子型のMHCクラスII分子を比較することによって、自己抗体とTSHRの結合性は、MHCクラスII分子の遺伝子型によるバセドウ病感受性と非常に高い相関を示すことが判明した。以上より、TSHRとMHCクラスII分子との複合体がバセドウ病の自己抗体の標的であり、その複合体形成がバセドウ病の原因になっていることが示唆された。
MHCクラスII分子は主に免疫細胞に発現しているため、正常な状態で甲状腺組織にMHCクラスII分子は存在しないことが知られている。そこで、バセドウ病患者の甲状腺組織を調べたところ、MHCクラスII分子は大量に発現していることが判明した。さらに、TSHRとMHCクラスII分子との複合体が、実際にバセドウ病患者の甲状腺組織に存在するかどうかを解析。その結果、TSHRとMHCクラスII分子との複合体がバセドウ病患者の甲状腺組織には存在するが、正常甲状腺には存在しないことが判明した。以上より、TSHRとMHCクラスII分子がバセドウ病患者の甲状腺組織で複合体を形成することが、自己抗体の産生に関与していると考えられた。
さらに、TSHRとMHCクラスII分子との複合体が自己抗体の産生を誘導するかをマウスで解析。TSHRは自己抗原であるため、TSHR単独では自己抗体は産生されないが、TSHRとMHCクラスII分子との複合体を投与することで、TSHRに対する自己抗体の産生が強く誘導された。
自己免疫疾患の原因を標的にした新たな治療薬・予防薬の開発に期待
以上の結果より、TSHRがMHCクラスII分子と結合することによってTSHRの抗原性が変化し、抗原性が変化したTSHRが免疫寛容を破綻させてバセドウ病で見られるように自己抗体の産生を惹起することが判明した。
今回の研究によって、MHCクラスII分子による免疫寛容の破綻機構が明らかになり、TSHR等の自己抗原に対する病原性自己抗体が誘導されることが初めて明らかになった。今回の研究成果について研究グループは、「今後、バセドウ病のみならず、他の自己免疫疾患における自己抗体産生メカニズムの解明や、自己免疫疾患の治療薬や診断薬開発に貢献することが期待される」と、述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 ResOU