進行性口腔扁平上皮がん、化学療法治療効果の改善が課題
東京医科歯科大学は3月9日、マイクロRNA「miR-634」を創薬シーズとして用いたmiR軟膏製剤の局所投与が口腔扁平上皮がんの化学療法に対する感受性を顕著に増強させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所・分子細胞遺伝分野のチャン・スアン・フォン大学院生、井上純准教授、稲澤譲治教授らの研究グループと、同大顎口腔外科学分野の原田浩之教授の共同研究によるもの。研究成果は、「Molecular Therapy-Oncolytics」オンライン版に掲載されている。
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口腔がんの90%以上を占める口腔扁平上皮がん(Oral squamous cell carcinoma;OSCC)は、日本を含むアジア諸国での罹患率が非常に高いがん種。治療法として、外科的切除や化学療法と放射線療法を併用した化学放射線療法が開発されてきたが、進行症例の予後の改善には至っていない。化学療法で使用される抗がん剤シスプラチンに対する感受性の増強を促す新しい治療戦略を開発することが課題の1つとなっている。
先行研究で核酸抗がん薬「miR-634」製剤を開発、治療有効性と安全性を実証
マイクロRNA(microRNA;miR)は、約22塩基からなる機能性RNAであり、複数の標的遺伝子の転写産物に直接結合することで、遺伝子発現を抑制する機能がある。がん抑制型miRは、複数のがん促進遺伝子群を同時に標的とするため、核酸抗がん薬の創薬シーズとして注目されている。
これまでに研究グループは、がん抑制型miRであるmiR-634のがん細胞への導入は、ミトコンドリア機能(OPA1, TFAM)、リソソーム分解機構(LAMP2)、抗酸化作用(NRF2)、グルタミン代謝(ASCT2)、抗アポトーシス作用(XIAP, APIP, Survivin)という細胞ストレスに対して細胞保護的に働くプロセスに関連する複数の遺伝子群を同時に標的とすることにより、効率的に細胞死を誘導することを明らかにした。さらに最近、合成2本鎖miR-634を創薬シーズとしたmiR核酸抗がん薬(全身投与製剤および局所投与用軟膏製剤)を開発し、担がんマウスを用いて、それらの製剤の治療有効性と安全性を実証した。
miR-634の新たな標的遺伝子として、シスプラチン耐性に寄与するcIAP1を同定
今回の研究で、OSCC細胞株へのmiR-634の導入は、シスプラチンに対する感受性を顕著に増強することを見出した。miR-634の新たな標的遺伝子として、抗アポトーシス作用に働くcIAP1遺伝子を同定した。予後不良な進行OSCC症例のがん組織において、cIAP1は遺伝子増幅を伴って高発現していること、そして、cIAP1の遺伝子増幅を有するOSCC細胞株は、シスプラチンに対して抵抗性を示すことを見出した。
また、OSCC細胞株において、獲得性のシスプラチン耐性亜株を樹立。これらの内因性および獲得性のシスプラチン耐性細胞において、miR-634の導入は、cIAP1を含む複数の標的遺伝子群の発現抑制を介して、シスプラチンに対する耐性を克服することを明らかにした。
さらに、OSCC細胞株担がんマウスモデルにおいて、miR-634軟膏製剤の腫瘍への局所投与とシスプラチンの全身投与は、相乗的な抗腫瘍効果を誘導することもわかった。
miR-634軟膏製剤の局所投与は、シスプラチン治療効果を最大限に引き出す可能性
多くのがん種において、cIAP1遺伝子の高発現は、シスプラチンに対する耐性能の獲得に寄与するため、cIAP1を分子標的とした治療薬の開発が期待されている。今回の研究において、OSCC細胞へのmiR-634の導入は、cIAP1を含めた細胞保護プロセスに関連する複数の遺伝子群を同時に標的とすることにより、シスプラチンに対する感受性をより効率的に増強することが明らかになった。シスプラチンを使用した化学療法は、切除不能な局所進行症例および高齢や口腔機能的な理由により手術不適応となる症例に対して適応される。「そのような症例において、腫瘍へのmiR-634軟膏製剤の局所投与は、シスプラチンによる治療効果を最大限に引き出すための新しい治療モダリティとなることが期待される」と、研究グループは述べている。
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