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フェノフィブラートナノ点眼薬で糖尿病網膜症・黄斑浮腫を予防できる可能性-日大ほか

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2022年03月08日 AM11:00

糖尿病の合併症に効果を示すフェノフィブラートは点眼薬でも有効?

日本大学は3月4日、2型糖尿病モデルマウスにおいて早期から引き起こされる網膜血流調節障害を評価指標として、ナノ粒子化したフェノフィブラート点眼による糖尿病網膜症予防の可能性を検討し、フェノフィブラートナノ点眼薬が早期網膜血流障害を改善することを発見したと発表した。この研究は、同大医学部附属板橋病院眼科の長岡泰司診療教授、横田陽匡准教授、花栗潤哉専修医/大学院生、山上聡主任教授、近畿大学薬学部の長井紀章准教授、明治薬科大学薬学部の櫛山暁史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pharmaceutics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

糖尿病の主な合併症の一つである糖尿病網膜症は、いまだに失明原因の上位となっている重要な疾患であり、治療法は網膜光凝固(レーザー)や手術などの侵襲的な外科治療のみだった。これらの治療は視力を脅かすほどに進行した網膜症に対して行われるが、一度低下した視機能を回復させるのは容易ではなく、視力が良好な早期網膜症あるいは網膜症が発症する前からの治療が重要だ。研究グループは、糖尿病網膜症の超早期の段階で有効な新しい薬理学的治療が必要と考え、研究を重ねてきた。

脂質異常症治療薬として臨床ですでに広く用いられているフェノフィブラートは、PPAR-αのアゴニストとして働くが、これを内服することで、糖尿病の合併症に対しても有益な効果を示すという報告が数多くある。しかし内服する場合は、薬の重篤な副作用のリスクを考える必要がある。そこで研究グループは今回、このフェノフィブラートを全身への作用を最小限にして眼局所のみに作用を発揮させられるように、点眼薬として糖尿病網膜症治療に用いることができるか検討した。

ナノ粒子点眼とすることで有効濃度で網膜到達に成功

従来の点眼薬では眼球の後部にある網膜まで薬剤を有効濃度で浸透させることは困難だったが、近畿大学薬学部のグループが開発した方法でナノ粒子レベルまで粉砕した点眼薬では、エンドサイトーシスによる角膜での透過性を亢進し、また、眼内で強膜やぶどう膜を高濃度で通過することで網膜にまで高濃度で到達することが可能だ。そこで、フェノフィブラートのナノ粒子点眼を世界で初めて作成。マウスおよびウサギを用いた動物実験で、角膜を透過して前房内に入り、強膜ぶどう膜経路を介して実際に網膜まで有効濃度で到達することを確認した。

発見した2型糖尿病マウスの早期血流障害をナノ粒子点眼で改善可能か検討

研究グループは、2型糖尿病マウスで糖尿病網膜症発症前から網膜血流障害の程度が糖尿病による網膜機能障害の定量的指標になることを以前に確認していたことから、今回も網膜血流に着目し、フェノフィブラートのナノ粒子点眼の効果判定を行った。特に、フリッカー刺激(点滅光)に対する網膜血流増加反応には神経細胞やグリアが密接に関与しており、この現象は神経血管連関(neurovascular coupling)として広く認知され、糖尿病では神経血管連関が糖尿病発症早期から障害されていると考えられている。

研究グループは、フリッカー刺激と高酸素吸入の2つの負荷に対する網膜血流反応を用いて、これまで特に評価が困難だった網膜グリア機能の評価に成功。さらに同評価法で、2型糖尿病モデルマウスが早期からこれらの負荷に対する網膜血流反応が障害されていることを明らかにした。そこで、フェノフィブラートナノ点眼が、これらの早期障害を改善させるかについて検討した。

フェノフィブラートナノ点眼で、網膜血流反応が8週齢から改善し14週齢まで持続

結果、6週齢の2型糖尿病マウスを媒体のみで薬物効果のない基剤を点眼した無治療対照群とフェノフィブラートナノ点眼をした治療群とに分けて毎日朝夕の2回点眼を行い、8週齢~14週齢まで隔週で網膜血流測定を行った。その結果、フェノフィブラートナノ点眼群では安静時の網膜血流に影響を与えなかったにもかかわらず、フリッカー刺激および高酸素吸入に対する網膜血流反応をいずれも8週齢から改善させ、この反応は14週齢まで持続していたことがわかった。

さらに、同一個体の免疫組織学的検討では、無治療糖尿病群では網膜グリア障害の指標となるGFAPが亢進し、さらに糖尿病網膜症・黄斑浮腫の責任因子であるVEGFの発現も増強していたが、フェノフィブラートナノ点眼糖尿病マウスでは両者はいずれも抑制されており、フェノフィブラートナノ点眼により網膜グリア機能が保護され、VEGFは抑制されることが明らかになった。

AQP4の発現低下も改善されたことから糖尿病黄斑浮腫の治療にも応用できる可能性

また、網膜組織内の水分調節に重要な水チャネルであるAQP4の発現が無治療糖尿病マウスでは低下していたが、フェノフィブラートナノ点眼によりこのAQP4発現低下も改善されていたという。これらの結果から、フェノフィブラートナノ点眼が網膜まで効率的に浸透し、その長期投与によりPPAR-αのリン酸化を介して網膜グリア機能障害を改善し、2型糖尿病マウスの網膜血流反応障害を改善させた可能性があると考えられた。さらに、VEGFの発現亢進やAQP4の発現低下もフェノフィブラートナノ点眼により改善されたことは、糖尿病網膜症のみならず糖尿病黄斑浮腫の治療への応用も期待される。

将来的には糖尿病網膜症・黄斑浮腫治療薬としての効果を検討する予定

今回の研究により、フェノフィブラートナノ点眼が糖尿病網膜症・黄斑浮腫の発症予防や早期治療法となる可能性が見出された。現状では抗VEGF剤の硝子体注射が第一選択だが、患者の負担も大きい治療であるため、フェノフィブラートナノ点眼による低侵襲治療が可能となれば、糖尿病網膜症や黄斑浮腫の予防のみならず、既存の治療法との併用で、さらなる効果的治療にも役立つと考えられる。

「今後は、まず前臨床試験として眼球構造や形態が人眼と類似するブタを用いてこの治療の再現性と安全性の検討を行い、将来的には臨床研究にて糖尿病網膜症・黄斑浮腫治療薬としての効果の検討を行い、全国で1000万人以上いるとされる糖尿病患者の視機能を守りたいと考えている」と、研究グループは述べている。

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