医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > テクノロジー > 人工知能技術を用いて、がん病理組織画像の特徴数値化に成功-東大ほか

人工知能技術を用いて、がん病理組織画像の特徴数値化に成功-東大ほか

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年03月04日 AM11:30

深層ニューラルネットワーク「バイリニア畳み込みニューラルネットワーク」を用いて

東京大学は3月2日、人工知能技術の一つである深層ニューラルネットワークを用いて、がん病理組織画像の組織学的特徴を数値化する技術を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科衛生学分野の河村大輔助教、石川俊平教授ら、人体病理学・病理診断学分野の牛久哲男教授、深山正久教授(研究当時)、消化管外科学の瀬戸泰之教授、東京大学医学部附属病院免疫細胞治療学講座の垣見和宏特任教授、日本大学医学部外科学系消化器外科学分野の山下裕玄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がんなどの組織病理診断は、基本的に個別の病理医の経験知に基づいて行われている。顕微鏡で観察される組織学的形態は客観的な記載や数値化が難しく、通常の臨床データのように多数の症例の蓄積や他のデータとの比較が極めて困難だった。同様に病理医が遭遇した症例と類似した症例を見つけるための、検索エンジン等を用いた用語検索のような簡便な手段はなかった。

そこで、研究チームは近年画像認識の分野で優れた性能を発揮している深層学習技術を用いて、病理組織画像の特徴を捉える数値化技術の開発を実施した。がんは、単一の細胞を起源に持ち、同じ性質を持つ細胞が増殖する疾患。そのため、がんの病理組織画像は明確な「かたち」を持つ犬や猫などの一般的な画像とは異なり、模様(テクスチャ)のようなものと考えられる。そこで、今回の研究では、絵画の画像から描かれている「対象物」と「画風」とを分離するのに用いられる「バイリニア畳み込みニューラルネットワーク」という特殊な深層ニューラルネットワークを用いた。

病理組織像の定量的データとしての扱いが可能に

病理組織画像をディープテクスチャと呼ばれる1024次元の数値ベクトルに変換したところ、がんの組織学的特徴が極めてよく表現されることを見出した。使用するニューラルネットワークの構造やパラメータによってその性能が異なるため、数値と病理医の評価を比較して検証を行った結果、病理組織像の評価に最適なネットワークと層の組み合わせを見出した。

有用性の検証は、臨床的に重要と考えられる3通りのアプローチで実施した。1つ目は、がん病理組織画像の組織学的特徴に基づく分類と可視化である。同技術を用いると、がん病理組織画像を組織学的な類似性に基づくグルーピングや組織学的に近い症例が近くに配置されるような可視化が可能だ。国際がんゲノムプロジェクトThe Cancer Genome Atlas(TCGA)の32がん種7,175症例の組織画像をその類似性に基づいて2次元に配置すると、類似した形態を持つがん種同士が近くに配置されることが確認された。

また、胃がんにおいて、免疫チェックポイント阻害薬の効果と関連するような、これまで知られていなかった組織学的特徴を発見。サンプル数が少ないため、今後の検証は必要だとしている。

2つ目は、類似症例検索。同技術により数値ベクトル同士の距離を計算することで、過去の症例と組織学的に類似した症例を高速かつ正確に検索することが可能になった。病理医による評価との同等性も確認できたとしている。

3つ目は、がん遺伝子変異の予測。同技術と一般的な教師あり機械学習技術を組み合わせることで、病理組織画像のみから309種類のがんと遺伝子変異の組み合わせが一定の精度で予測できることが示された。

技術を利用したウェブシステム・『Luigi』を公開

さらに、同技術を利用した類似症例の検索機能および遺伝子変異の推定機能は、ウェブシステムやiPhone/iPad向けアプリケーション『Luigi』(App Store:「luigi pathology」)として開発・公開した。このツールは顕微鏡像をスマートフォン等で直接撮影するため、顕微鏡用デジカメシステム等の高価な機器を持たない中規模以下の医療機関や発展途上国の病院でも利用可能である。

病理診断の高度化、均てん化の促進も期待

同技術により、がんの病理組織画像を血液検査などの臨床データと同じように扱えるため、これまでにない大規模ながんの組織形態の解析が可能になると期待される。また、今回の研究で開発したウェブサービスやアプリケーションは、高度なゲノム解析技術へのアクセスや顕微鏡用デジカメシステム等の高価な機器を持たない、多くの中規模以下の医療機関や発展途上国の病院でも利用可能であり、病理診断の高度化、均てん化を促進すると考えられる。

今後はさらなる精度の向上や類似症例検索のデータベースの拡充、医療機関での利用を想定した検証実験などを進めていく予定だ、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 テクノロジー

  • FACEDUO「認知症ケア支援VR」発売-大塚製薬ほか
  • モバイル筋肉専用超音波測定装置を開発、CTのように広範囲描出可能-長寿研ほか
  • ヒトがアンドロイドの「心」を読み取り、動きにつられることを発見-理研
  • 生活習慣病の遺伝的リスクと予防効果の関係、PRS×AIで評価-京大ほか
  • 精神的フレイル予防・回復支援「脳トレシステム」開発-愛知産業大ほか