育児サポートアプリのデータを用い、発達について分析
国立成育医療研究センターは3月2日、養育者が日々の育児の中でリアルタイムに記録した発達データを解析した結果を発表した。この研究は、同センター分子内分泌研究部の松原圭子上級研究員、鳴海覚志室長と株式会社ファーストアセントと共同で実施したもの。研究成果は、「The Journal of Pediatrics」でオンライン公開されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
ヒトはさまざまな生物の中でも最も未熟な状態で生まれてくるとされ、実際、新生児は思考、感情表現、二足歩行、器用な手先動作などヒト特有の能力が未発達な状態で生まれてくる。しかし、出生後には驚異的スピードで次々と新しい能力を獲得し、1歳半頃までには言語でのコミュニケーション、二足歩行、簡単な道具の使用などヒト特有の能力が備わるようになる。小児科学ではこのような能力獲得過程を「発達」と呼び、身長や体重など数値で表現可能な変化を意味する「成長」と区別している。
発達の順調さを判断する目安として「発達マイルストーン」と呼ばれる指標が使われており「4か月までにあやすと笑うようになる」「8か月までに一人で座れるようになる」といった項目がある。現在、発達マイルストーンの基準データとして世界保健機構(WHO)の調査や厚生労働省の定期調査(乳幼児身体発育調査、直近では2010年に実施)のデータが使われている。これらは訪問員調査もしくは養育者へのアンケートにもとづいており、調査者が事前に定めた一定のタイミングでデータが集められていた。
近年、スマートフォンやタブレットが普及し、育児をサポートする機能を持つアプリが開発されている。ファーストアセントが運営する「パパっと育児@赤ちゃん手帳」もそのようなアプリの1つである。同センターとファーストアセントは、2017年から延べ70万人、5億件の育児ビッグデータを解析してきた。そして今回、発達をテーマとした研究成果をとりまとめた。
延べ1万6,627人分の発達データ分布、現在知られる基準データとおおむね一致
同アプリには「はじめて」という入力項目があり「人見知り」「寝返り」などの発達マイルストーンが初めて達成された日付を記録できる。2014~2019年の期間にアプリで記録された発達記録のうち、2歳頃までに達成される20項目について延べ1万6,627人分のデータを分析し、現在広く用いられている基準データ(厚労省「乳幼児身体発育調査」)と比較した。その結果、「あやし笑い」を除く19項目については、基準データとおおむね一致した分布をとることがわかった。
粗大運動発達に分類される7項目、冬生まれの子の方が全て早く達成
次に、発達マイルストーンの達成時期に関連する子どもの特性を分析した。具体的には性別、生まれた時の季節(春、夏、秋、冬)、栄養方法(母乳中心、混合栄養、粉ミルク中心)の3つの特性に着目し、統計手法を用いた詳しい解析を行った。
その結果、身体的な基本動作の粗大運動発達に分類される7項目(「寝返り」「おすわり」「はいはい」「つかまり立ち」「つたい歩き」「ひとり立ち」「ひとり歩き」)のデータ分布が生まれた季節により違っており、どの項目も夏生まれの子よりも冬生まれの子の方が早く達成することが判明した。
また、男女差に関する解析では、言語発達に関連したマイルストーンでデータの分布に違いがあり、言語発達がゆっくりとした子は男の子により多いことがわかった。
発達の「見える化」、乳幼児健診を補助できる可能性
今回の研究は、毎日の子育ての場で目の当たりにする子どもたちの発達を「見える化」した初めての研究である。多くの発達マイルストーンにおいて養育者がつけた記録は現行の基準データとおおむね一致していたことは、ビッグデータを活用した発達研究を推進してゆく上で重要な基礎的知見となる。
現在、発達の遅れを検出する唯一のスクリーニング機会は節目月齢(4か月、10か月、1歳半など)での乳幼児健診である。発達の「見える化」は、発達の遅れのリスクのある子をより早期に、より確実にみつけることで、乳幼児健診を補助できる可能性がある。
「日々ダイナミックに起きる発達の過程をより把握しやすくなることが、子どもたちへの愛着をより一層深める機会になればと考えている」と、研究グループは述べている。
なお、近日中に「パパっと育児@赤ちゃん手帳」に、養育者が子どもの発達状態をリアルタイムに把握できる「見える化」を実装する予定としている。
▼関連リンク
・国立成育医療研究センター プレスリリース