がん幹細胞の発生機構解明は急務
東京医科歯科大学は2月28日、発がん性のRAS遺伝子変異がCDK1の活性化とタンパク質のO-GlcNAc修飾を誘導することでSOX2の発現を増大させ、がん幹細胞を生じさせることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所分子細胞生物学分野の澁谷浩司教授と清水幹容助教の研究グループが、日本医科大学先端医学研究所田中信之教授との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
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がんは日本における死亡率の第1位を占めている疾患であり、年間約30万人以上ががんで死亡している。特にがんの転移や再発はがん患者の生存率を著しく低下させる原因であり、阻止することができれば非常に有用ながん治療法となることが期待できる。がん幹細胞は、この転移や再発の原因の1つと考えられている特殊ながん細胞で、近年、がん幹細胞を標的とした治療が注目されている。
がん細胞は正常な細胞とは異なり、異常な細胞増殖を繰り返すことで固形腫瘍を形成するが、これは正常な細胞の遺伝子に変異が生じることで引き起こされる。がん幹細胞も正常な細胞に遺伝子変異が起こることで生じると推測されるが、がん幹細胞の発生機構には不明な点が多く残っている。そのため、治療によりがん幹細胞を根絶するためにも発生機構の解明が急務となっている。
RAS変異<CDK1活性化・O-GlcNAc修飾増大<SOX2<がん幹細胞
研究グループは遺伝子変異によるがん幹細胞発生機構を解明するため、がん患者で普遍的にみられる発がん性のRAS変異体を正常な細胞に発現させた。その結果、幹細胞因子SOX2の発現が著しく増大しがん幹細胞が発生することを突き止めた。このとき、SOX2遺伝子を欠損させることでがん幹細胞が生じなくなり腫瘍も形成されなくなることから、SOX2の発現増大が発がん性RAS変異体によるがん幹細胞の発生に重要であると判明した。
また、発がん性RAS変異体がCDK1の活性化とタンパク質のO-GlcNAc修飾増大を誘導する結果も得られ、それぞれSOX2の発現誘導とがん幹細胞の発生に重要であることがわかった。そこで、CDK阻害剤ジナシクリブまたはO-GlcNAc修飾阻害剤OSMI1を用い、RAS変異体を発現する細胞を処理しがん幹細胞に対する効果を調べたところ、がん幹細胞の発生が著しく阻害されることを明らかにした。
ジナシクリブやOSMI1、がん幹細胞を標的とした治療薬候補に
これまで遺伝子変異により生じるがん幹細胞発生機構は全く知られていなかった。今回の研究では、多くのがんで報告されているRAS遺伝子変異がCDK1の活性化とタンパク質のO-GlcNAc修飾増大を介して幹細胞因子SOX2の発現を誘導することで、がん幹細胞を生じさせることを見出した。また、CDK阻害剤ジナシクリブまたはO-GlcNAc修飾阻害剤OSMI1を細胞に処理することでがん幹細胞の発生を抑えられたことから、これらの阻害剤ががん幹細胞を標的とした新たな薬剤となると期待される。
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