Bモード超音波検査の診断精度を高めるための支援技術の開発が望まれていた
近畿大学は2月28日、超音波検査において4種類の肝腫瘤の画像診断を行う人工知能(AI)を開発し、その精度(正解率)が専門医資格をもつ熟練医を上回ることを世界で初めて報告したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(消化器内科部門)の西田直生志教授、工藤正俊主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Gastroenterology」にオンライン掲載されている。
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少子高齢化に伴う医療への負担増加が問題となっており、近未来の社会ではAIの持つ速さと正確さを利用して、医療の質向上と効率化を図ることが期待されている。AIの学習方法の一つ「ディープニューラルネットワーク」は、ヒトの脳の情報処理を模倣し、データの特徴を自己学習で習得するため複雑なタスク処理が可能であり、多くの分野で導入が始まっている。
一方、肝疾患診療において超音波検査、特にBモード超音波検査は、簡易であるため広く普及しており、肝悪性腫瘍の診断の際に最初に行われる画像検査だ。しかし、超音波での映り方はいろいろな因子に影響されるため、画像から病気の有無や進行度合いを診断するには経験が必要であり、初心者や非専門医にとっては正確な診断が困難な場合が多くある。そこで、Bモード超音波検査の診断精度を高めるための支援技術の開発が望まれていた。
Bモード超音波検査で撮影した肝腫瘤の画像約7万枚を学習させた肝腫瘤の画像診断AIモデルを開発
研究グループは今回、全国の11施設から肝腫瘤のBモード超音波画像を収集し、これらをAIの物体判別アルゴリズムの学習データとして用いることで、Bモード超音波検査において肝腫瘤の診断を支援するAIモデルを開発した。
遭遇頻度の高い4種類の肝腫瘤のBモード超音波画像7万950枚を、ディープニューラルネットワークの1種である、19層の畳み込みニューラルネットワークに学習させた。Bモード超音波画像の腫瘤部を正方形に切り出して、4種類の学習画像数がおよそ等しくなるようにデータ拡張を行い、10分割交差検証法で評価。学習データ数の増加に伴い、全体の正診率、疾患ごとの鑑別精度、良悪性の鑑別精度、悪性腫瘍検出の感度、特異度は順調に上昇し、最終的に7万950画像の学習AIモデルでは、4種類の疾患の鑑別精度は91.1%、悪性腫瘍鑑別精度は94.3%(感度:82.8%、特異度:96.7%)であり、高い鑑別能を示した。
AIによる悪性腫瘍鑑別の精度は90%以上、専門医の80%を大きく上回る
研究では、テスト用肝腫瘤動画を用いて、AIと熟練医の診断能の比較も行った。AIの診断にはBモード超音波の動画から5フレームの静止画を選び、3フレーム以上で一番高い推定確率を示す疾患をAIの診断とした。一方、ヒトは静止画のみから診断することは通常極めて困難なため、動画を観察して診断した。その結果、AIの4疾患鑑別精度は89.1%、悪性腫瘍鑑別精度は90.9%であったのに対して、熟練医5人の4疾患鑑別精度の中央値は67.3%(分布:63.6%~69.1%)、悪性腫瘍鑑別精度の中央値は80.0%(分布:74.5%~83.6%)で、AIの精度が熟練医の結果を大きく上回った。
また、正しい診断に対するAIの推定確率は、学習データ数が多いほど上昇しており、これはAIが学習を増やすことにより信頼性の高い正解を出力できることを示しているという。肝腫瘤のBモード超音波診断において、本AIモデルを活用することにより、非専門医においても熟練医を上回る診断を行うことができると期待される。
AIの支援によるBモード超音波検査の肝腫瘤診断精度向上に期待
肝腫瘤は、超音波検査を実施した際にしばしば確認される病変だが、悪性腫瘍である可能性もあり、検査結果の判断は非常に重要だ。今回開発されたAIモデルによる肝腫瘤の疾患鑑別の精度は90%を超え、専門医資格を持つ熟練医の80%を大きく上回った。
「本研究成果は世界初であり、AIを活用した超音波診断の実用化に向けた大きな一歩となるものだ」と、研究グループは述べている。
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