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「非被爆」で血管内治療の手術トレーニングが可能なシステムを開発-理研ほか

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2022年02月28日 AM11:30

従来のトレーニング法、医師のX線被曝が避けられない

(理研)は2月25日、医師がX線被爆することなく、カテーテルなどを用いた血管内治療の手術トレーニングを行えるシステムを開発したと発表した。この研究は、理研光量子工学研究センター画像情報処理研究チームの深作和明客員研究員(新座志木中央総合病院脳神経外科医師)、横田秀夫チームリーダー(琉球大学医学部先端医学研究センター特命教授)、琉球大学病院心臓血管低侵襲治療センターの岩淵成志特命教授、大屋祐輔教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、第51回日本神経放射線学会で発表された。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

患部に到達するために皮膚や周辺組織を切開する従来の外科的治療は、オープンサージャリーや観血的手術とも呼ばれ、痛みを伴う、術後の回復に時間を要するなどの課題がある。これらを解決するために、患者にとって負担の少ない「」や内視鏡下手術などの低侵襲手術が開発されてきた。

血管内治療では、カテーテルやステントを用いて、心筋梗塞や脳梗塞などにおける血管の狭窄を広げたり、血管を閉塞させている血栓を除去したり、破裂する恐れのある脳動脈瘤の中にコイルを詰めて塞栓したりする。その際、X線透視像をコンピュータ処理するデジタルサブトラクション血管造影(DSA)装置を用いる。血管にカテーテルを挿入して患部にその先端を到達させるが、X線透視だけでは血管は見えないため、造影剤を血管に流して撮影し、血管の形状を把握する。そしてカテーテルの内腔に先端を適度に曲げたガイドワイヤーを挿入し、ガイドワイヤーの手元をひねって方向を制御しつつカテーテルを進行させて、患部に誘導する。

カテーテル手術では、何らかのトラブルがあった際に新たなカテーテルを送り込む必要があるなど、オープンサージャリーに比べて対応が遅れがちになる。そのため、事前に手術の技能を十分に習熟できるよう、各種の血管モデルが開発され、トレーニングに用いられている。しかし、従来のトレーニング法では実際の治療と同様にX線透視が必要なことから、医師の被曝が避けられない。さらに、トレーニングの場が実際の治療に使われるカテーテル室に限定されるため、多くの医師が同時にトレーニングできない、さまざまな術式のトレーニングに必要な時間を確保できない、緊急の検査や治療が発生した場合に差し障るなどの問題もある。

白色光源とビデオカメラを用いたトレーニングシステムも開発されているが、血管の分岐部やガイドワイヤーの上下の位置関係を陰影などの情報から判断できてしまうことから、実際の治療に用いる奥行きのないX線透視の影絵における操作に比べると操作が容易であり、トレーニングとしては不十分だ。そこで、共同研究グループは実際の血管内治療と同等の映像を提示し、かつX線を用いないトレーニングシステムの開発を目指した。

蛍光観察と画像処理技術を組み合わせた新たな方法を開発

今回、研究グループは血管の形状を再現し、「X線を用いない」透かし撮りを可能にするため、透明な血管モデルを用意。また、造影剤による血管経路の再現と血管内に挿入するカテーテルなどの器具を表現するために、生命科学研究などでよく用いられる「蛍光観察技術」を利用した。蛍光観察では、特定の波長の光を吸収して別の波長の光を発する「」を使用する。

可視光域の蛍光色素と光源、高感度カメラと波長選択フィルターからなる撮影システムを採用。血管モデルには、可視光域で透明な樹脂を選定し、液体に浸した状態で撮影することで光の屈折の影響を低減させた。造影剤には液体の蛍光色素を用い、ガイドワイヤー、、バルーン、ステントにも同じ波長の蛍光色素を塗布することで、血管内と器具の特定の部位だけを蛍光発光させるようにした。その結果、対象物の距離に由来する陰影が少なくなり、X線透視による奥行き方向の情報がない映像と同様の効果を得られたという。さらに、撮影画像に対して、輝度の反転、造影剤流入時の画像の記録と重畳表示、画像の差分表示などをリアルタイムで処理できる画像処理機能を持たせた。

これらの機能の組み合わせにより、血管内治療で用いられる、血管の走行を示すルート表示やロードマップなどのDSAの機能を実現したX線透視撮影に近い「非被爆血管内治療シミュレータ」の開発に成功した。

模擬撮影で実際の状況を再現、縦横60cmの場所に設置可能で安価という長所も

開発したシステムで血管模擬モデルの撮影では、血流モデルに造影剤を流し入れることにより、血管の走行を撮影したところ、血管モデルに設置した分岐や動脈瘤が認められた。造影剤が流れた後、ガイドワイヤーとカテーテルを挿入した状態で、ガイドワイヤーとカテーテルに設置した蛍光色素の配置を区別して観察できた。実際のガイドワイヤーとカテーテルの先端には、鉛などでX線の通りにくい箇所を作り、X線で区別できるよう透過特性を変えており、同様の表示を可能にしている。造影剤とガイドワイヤー、カテーテルを重畳表示した画像からは、血管の走行と合わせて、ガイドワイヤーの方向と挿入を操作することにより、任意の分岐を進むことができた。

最後に、開発したシステムと一般のカメラでの撮影の比較を行った。白色光源の下で、一般カメラで撮影した画像では、血管モデルの走行とガイドワイヤーとカテーテルが一緒に写っており、血管モデルの形状や上下の位置を陰で判断できるなど、X線透視下での血管内治療と大きな違いがあり、トレーニングの成果が期待できないことが確認された。

一方、開発したシステムには、画像処理部にグラフィカルユーザーインターフェースが実装されているため、一般的なパソコンでもDSAを摸したカテーテル治療のトレーニングが可能だ。現在、同システムは縦横60cmの場所に設置できる大きさだが、さらなる小型化も可能であり、また従来法に比べてはるかに安価であるなどの長所があるという。

いつでもどこでも医師がトレーニングすることが可能に

今回開発したシステムでは、X線を使用せずにX線透視に近いリアルタイムのイメージを得ることができる。医師が職業的なX線被曝を繰り返すことにより、白内障をはじめとする健康被害が懸念されており、カテーテル治療に関わる学会では、白内障の検診を始めているところもある。同システムを用いることで、医師のX線被爆を患者の治療の際に限定することが可能になる。今後市販化を目指した開発をさらに進め、医師のトレーニング機会を提供することにより、新しいデバイスの評価や多数の医師の技能向上も期待される。

さらに、理研画像情報処理研究チームで開発した患者個体別血管モデリングシステムと連携させることで、患者個体別の血管形状を反映した3Dモデル、統計的に多発する病態モデルでのシミュレーションに展開することを目指すという。「新たなデバイスを用いて、どこでも、被曝の心配なく、必要な時に好きなだけ治療の練習ができるようになり、治療の安全性の向上につながるものと期待できる」と、研究グループは述べている。

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