骨形成から骨吸収への移行メカニズムは不明
大阪大学は2月25日、骨をつくる骨芽細胞が細胞外小胞を分泌し細胞間でやり取りすることで、相互に連携しながら骨の新陳代謝(骨代謝)を制御していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の上中麻希特任研究員、菊田順一准教授、石井優教授(IFReC免疫細胞生物学/大阪大学医学系研究科/生命機能研究科)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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骨は常に新しく作り変えられ新陳代謝を行っている。破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞による骨形成が絶えず繰り返され、骨構造を緻密に維持している。骨粗しょう症などの骨疾患では、骨吸収と骨形成のバランスが崩れるのみでなく、骨の代謝サイクルにも異常を来すことが知られている。
これまで骨代謝において、骨吸収から骨形成へ移行する際に働く因子については数多く報告されてきたが、もう1つのベクトルである、骨形成から骨吸収へどのように移行するかはよくわかっていなかった。
骨芽細胞は細胞外小胞を交換し、骨形成から骨吸収へと移行する骨代謝回転に寄与
研究グループは、これまで独自に開発した生体イメージング技術をさらに改良し、骨組織に存在する細胞外小胞と呼ばれる小さな粒子を可視化することに成功した。そしてマウス生体内において、骨を作る骨芽細胞が細胞外小胞を分泌することを発見した。分泌された細胞外小胞を回収し培養骨芽細胞に投与したところ、小胞を取り込んだ骨芽細胞は、骨をつくるために必要な石灰化機能が低下し、骨芽細胞分化に必要なRUNX2(ランクス2)の発現量が低下した。
また、小胞を取り込んだ骨芽細胞は、骨吸収を行う破骨細胞の分化に必要なRANKL(ランクル)を分泌し、破骨細胞分化を誘導した。つまり、細胞外小胞を取り込んだ骨芽細胞は、新たな骨形成を抑制する作用を持つと同時に、骨吸収を行う破骨細胞分化を誘導する作用を持つことが明らかになった。
さらにそのメカニズムとして、骨芽細胞が出す細胞外小胞に多く含まれるマイクロRNAのmiR-143-3pが寄与していることをRNAシーケンスによる解析、ノックアウトマウス解析を通して明らかにした。
このことから、骨芽細胞は細胞外小胞を交換し、骨形成から骨吸収へと移行する骨代謝回転に寄与していることが明らかとなった。
骨疾患に対する新たな治療薬への応用に期待
高齢者の多くが罹患する骨粗しょう症をはじめ、骨折、骨腫瘍、骨軟化症といった骨疾患は、骨吸収と骨形成の骨代謝バランスが大きく寄与している。
今回の研究成果により、骨吸収から骨形成のみでなく、骨形成から骨吸収へ移行を促す因子が明らかにされたことにより、より生理的な骨代謝サイクルを維持し、健康な骨代謝バランスへと導く、新たな治療法の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。