セボフルランの炎症からの保護作用と、睡眠への影響を検討
筑波大学は2月22日、マウスにあらかじめセボフルランを吸入させておくと、その後に全身炎症で睡眠サイクルが乱れても、正常な睡眠サイクルが有意に早く改善することが明らかになったと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の神林崇教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of sleep research」に掲載されている。
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睡眠と麻酔は似て非なる現象だ。近年の研究で、両者は神経回路の一部を共有していることが明らかになったが、いまだ麻酔の神経回路の全貌は明らかになっていない。
麻酔薬はさまざまな受容体に作用し、その効果も薬剤により多岐にわたる。吸入麻酔薬の一つであるセボフルランには、麻酔作用だけでなく、さまざまな臓器を虚血や炎症による障害から保護する作用があることが知られている。そこで研究グループは今回、セボフルランの炎症からの保護作用と、睡眠への影響を検討した。
全身炎症を起こす前のセボフルラン吸入でマウスのレム睡眠時間が改善
感染症などで全身に炎症が起こると、ノンレム睡眠が増えてレム睡眠が減り、正常な睡眠サイクルが乱れることが知られている。研究では、免疫細胞に作用する物質 LPSを用いて全身炎症を起こしたマウスにセボフルランを吸入させ、睡眠にどのような影響が出るのかを調べた。その結果、全身炎症を起こす前にセボフルランを投与したマウスは、非投与群のマウスと比較し、全身炎症による睡眠サイクルの乱れが有意に早く改善することを発見した。特にレム睡眠の回復が顕著で、全身炎症時には全く見られなくなってしまうレム睡眠が早く出現するようになり、レム睡眠時間が改善された。また、レム睡眠の出現頻度も、短時間で正常時と同等まで回復することが明らかになった。
セボフルランは「全身炎症時に特異的に睡眠を改善」する作用をもつ可能性
さらに、免疫組織化学染色法で神経の活動を調べたところ、セボフルラン投与群は、非投与群と比較して、レム睡眠を司る神経核である脚橋被蓋核・外側被蓋核のアセチルコリン神経が活発に活動していた。全身炎症時においても、セボフルランが神経核の活動を維持することが、睡眠回復のメカニズムとして考えられる。
こうした睡眠に対するセボフルランの効果は、全身炎症が起きていないときには全く見られなかった。このことから、セボフルランは全身炎症時に特異的に、睡眠を改善する作用があると言える。また、全身炎症が起こった後にセボフルランを投与しても、睡眠の改善は得られなかったことから、セボフルランをあらかじめ吸入させておくことが、睡眠改善には重要であることがわかった。
研究グループは今後、セボフルランの全身炎症時における睡眠を改善させる神経回路の全貌を解明するとともに、臨床現場への応用を目指すとしている。
セボフルランの全身炎症時睡眠回復のメカニズム解明で、術後の睡眠障害などの予防・治療への応用に期待
睡眠リズムの乱れは、せん妄や術後認知機能障害等の合併症を引き起こすことが知られている。セボフルランの全身炎症時における睡眠回復のメカニズムが明らかになれば、手術後の睡眠障害やせん妄、集中治療後症候群(PICS)などの予防・治療に発展していくことが期待される。「特定の神経核をターゲットとした睡眠障害に対する治療薬の開発に応用できる可能性もある」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JORANAL