妊娠37~38週の出生「満期早産」の日本の実態を調査
山梨大学は2月22日、「エコチル調査」の参加者を対象にした調査から、妊娠37週以降、特に妊娠中の合併症がなく、帝王切開で生まれた新生児のうち、満期早産児は満期産児(妊娠39~40週)の約4倍、出生後の呼吸障害を起こすリスクが高いことがわかったと発表した。この研究は、同大大学院総合研究部附属出生コホート研究センターの堀内清華特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Health science reports」に掲載されている。
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妊娠37週未満での出生は「早産」と呼ばれ、生まれた子どもにさまざまな負の影響が出ることはよく知られている。しかし、近年は、妊娠37~38週の出生であっても、短期的・長期的に生まれた子どもの呼吸障害、アレルギー疾患、代謝性疾患などの発症や神経発達に影響があることがわかってきており、「満期早産」として認識されるようになった。過去10年ほどにおいて、欧米諸国では、満期早産を減らすための取り組みがとられてきたが、日本における満期早産の実態はわかっていなかった。そこで、研究グループは、日本における満期早産の頻度と、その分娩様式、そして満期早産が新生児の呼吸に与える影響について検討した。
妊娠37週での分娩方法、49.7%が帝王切開
エコチル調査に参加している10万304人の生産児のうち、出生時の妊娠週数が不明である293人を除いた10万11人を対象とした。妊娠週数別の出生数は34週未満1,231人(1.2%)、34~36週4,353人(4.4%)、37~38週(満期早期)3万2,078人(32.1%)、39~40週(満期)5万3,313人(53.3%)、41週(満期後期)8,809人(8.8%)、42週以上(過期)227人(0.2%)であった。
妊娠37週では、49.7%が帝王切開によって生まれていた。妊娠38週では、自然分娩が48.3%と最も多く、次いで帝王切開が34.6%を占めていた。帝王切開を行う理由で最も多かったのは「反復帝王切開」だった。
帝王切開で生まれた児、満期出生と比べ、満期早期出生での呼吸障害リスクは約4倍高い
次に、出生時の妊娠週数と呼吸障害との関係について解析を行った。この解析では、特に合併症がなく、米国産婦人科学会の適応基準に照らし合わせて、医学的に満期を待たずに、早めに出生させた方が良いと考えられる条件を満たさない児で、妊娠37週以降に帝王切開で生まれた1万51人に絞って行った。ここでの呼吸障害には、出生時に出生場所で記録された、呼吸窮迫症候群、新生児一過性多呼吸、その他の呼吸障害が含まれた。
その結果、呼吸障害の発生頻度は、満期早期が2.8%(242/8,787人)、満期0.5%(5/946人)、満期後期0.9%(3/318人)と、満期で最も低くなっていた。満期早期での出生は、満期での出生と比較すると、新生児の呼吸障害のリスクが約4倍高くなっていた(調整オッズ比4.19;95%信頼区間1.70,10.34)。
満期早産となった背景等を解明するための詳細な調査を
今回の研究では、出産時期の医学的適応を判断するための詳細な情報(例えば、子宮破裂のリスクとなる子宮の傷跡や前回の帝王切開時の術式、子宮破裂の情報など)がないため、なぜ満期を待たずに早めに出生させているのか、その背景等を分析することは困難だった。入手可能な情報のみで分析を行ったため、早期に出生させるに至った理由を過小に評価している可能性がある。
子どもの短期的な健康のためには、満期早産を減らすことが望ましいが、日本では分娩施設や出産に従事する医療従事者の減少により、緊急帝王切開に対応することが難しいという現状もあり、一概に満期早産を減らすことは困難であると考えられる。「今後、出産時の緊急対応のリスクと、子どもの長期的な健康予後とのバランスをどのようにとっていくかの議論が進むことが望まれる。また、分娩施設での詳細な調査により、満期早産がなぜ発生するのかを解明することが、今後の取り組みを考える上でも重要と考えられる」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース