高齢者対象、210人へWEB調査/276人へ郵送調査を実施
京都大学は2月21日、高齢者を対象として、孤独を好む傾向が孤独感や主観的幸福感とどのように関係するかの検証調査を実施したと発表した。この研究は、同大京大学院教育学研究科の豊島彩研究員(研究当時、現:島根大学人間科学部講師)、楠見孝同教育学研究科教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Innovation in Aging」に掲載されている。
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孤独な時間を好む志向性が高いと、一人の時間が増えてもその時間をポジティブに過ごすことができるため、特に高齢期では主観的幸福感の維持向上につながると考えられてきた。しかし、いくつかの研究で行われた調査では、そのような効果は確認されず、むしろ孤独を好む志向性が高い人は、孤独感が高く、主観的幸福感が低い傾向があると報告されている。
今回、研究グループは、孤独を好む志向性の中にも、孤独感のようなネガティブな感情につながる要素と主観的幸福感のようなポジティブな感情と関連する要素があると考えた。そこで、高齢者を対象として調査を行い、孤独を好む志向性と孤独感、そして主観的幸福感の関連を検証することを目的とした。
研究1では65歳~80歳の高齢者210人(男性101人、女性109人)を対象とし、WEB調査を実施した。研究2では、インターネットの利用状況により対象者に偏りが生じる可能性を考慮し、同様の郵送調査を実施し、276人(男性107人、女性169人)のデータを追加し分析。調査では、孤独を好む志向性、孤独感を測る質問項目への回答を求めた。主観的幸福感を測定するために、日常で感じるネガティブ感情とポジティブ感情、そして人生満足度に関する質問項目への回答を求めた。同研究の結果に影響を与える要因としては、性別、婚姻状態、世帯年収、主観的健康状態、友人との交流頻度の5つとし、これらの影響を統制したうえで分析した。
孤独を楽しむ傾向が高い人、ネガティブ感情「低」
まず、研究1の結果から、孤独を好む志向性には、とにかく一人になりたいと感じるといった「孤独を必要とする」こと、また、一人の時間を楽しみ、静かな場所で休息をとるのを好むといった「孤独を楽しむ」こと、そして、作業に集中するため一人になりたいと感じる「孤独の生産性を評価する」ことの3つの要素に分けられた。
次に、研究2の結果から、「孤独を楽しむ」傾向が高い人は、ネガティブ感情が低いことが示された。また、効果としては弱いが、「孤独の生産性を評価する」傾向が高い人は、ポジティブ感情と人生満足度が高いことがわかったとしている。
孤独を好む志向性が主観的幸福感に与える効果は、部分的
一方で、孤独感との関連性に注目した結果、孤独を好む志向性は3つの要素すべてが孤独感の高さと関連。孤独感を介した効果を分析した結果の場合、孤独を好む志向性が主観的幸福感に与える効果は部分的であることがわかった。
孤独を好む高齢者、ライフスタイルや心身の健康状態への影響を調べる必要あり
同研究の成果は、従来は社交性やソーシャルスキルが低いとされていた孤独を好む人の価値観を認め、プライベートな楽しみに合わせた、対人交流に依存しない新たな支援の可能性を広げることに貢献するものだという。同研究が着目した孤独を楽しめる高齢者の存在は、コロナ禍での新たな生活様式が続く状況において、孤独と上手く付き合う方法を考えるきっかけになることが期待される。
ただし、同研究結果では、孤独感が主観的幸福感を阻害する効果が強いことも示されているため、どのようにしたら孤独感の悪影響を抑えられるかは明らかではない。そのため、今後継続的な調査を行い、孤独を好む高齢者のライフスタイルや行動傾向が、心身の健康状態に影響するのかを調べる必要がある、と研究グループは述べている。
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