CKD患者約3,200人対象コホート研究、アルドステロン拮抗薬投与と将来の腎代替療法導入リスクとの関連を検討
大阪大学は2月17日、慢性腎臓病(CKD)患者に対するアルドステロン拮抗薬の使用が、末期腎不全への進展の回避と強く関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の岡樹史医員、大学院医学系研究科の猪阪善隆教授(腎臓内科学)、貝森淳哉寄附講座准教授(腎疾患臓器連関制御学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
透析療法を必要とするCKD患者は年々増加しており、腎不全の進行を抑制するための新規治療法の開発は喫緊の課題だ。アルドステロン拮抗薬は、長きにわたりCKD患者の浮腫や尿蛋白の軽減目的に頻用されてきた。動物実験では同薬の腎保護作用が示されているが、CKDの重要な転帰である腎不全の進行や腎代替療法導入のリスクとの関連については実臨床でのエビデンスはなかった。そのこともあり、進行した腎不全では高カリウム血症などの副作用への懸念から、同薬の投与は早期に中止される傾向にあった。
最近、海外でのランダム化比較試験(RCT)によって、国内未承認の新世代アルドステロン拮抗薬フィネレノンが、腎代替療法導入リスクを低下させることが示された。しかし、RCTには、試験参加のために厳格な参加基準が患者に設けられており、その基準に当てはまるごく一部の患者層にしか得られた知見を適用できない、という課題がある。実際、同試験においてフィネレノンの腎代替療法の回避効果が示されたのは、CKD患者のうち「ACE阻害薬またはARBがもともと投与されており、かつeGFRが25mL/分/1.73m2以上に維持されている糖尿病の患者」に限定される。また、国内で処方できるアルドステロン拮抗薬に関するデータでは無いことにも注意が必要だ。
一方、実臨床で得られる診療録データをもとにした観察研究では、より幅広い患者層で投薬と予後との関連を検討することが可能だ。しかし、アルドステロン拮抗薬と腎予後について、観察研究から得られた知見はこれまでなかった。
アルドステロン拮抗薬の使用と予後の関係を解析するにあたり、腎機能の変化とともに服薬状況がしばしば変化(処方の開始、中止、再開)することに留意しなければならない。つまり、薬剤の使用とアウトカムとの関係に対して腎機能が時間依存性交絡を生じるため、質の高い検討を行うには以下に示す周辺構造モデルによる解析が必要だ。
今回、研究グループは、大阪大学医学部附属病院腎臓内科に通院したCKD患者約3,200人を対象にコホート研究を実施。アルドステロン拮抗薬の投与と、将来の腎代替療法導入リスクとの関連を検討した。今回の研究では、国内で使用可能なスピロノラクトン、エプレレノン、カンレノ酸カリウムを調査対象とした。統計解析として周辺構造モデルを用いることにより、時間依存性交絡の問題に対処した。
糖尿病、非糖尿病、重度腎不全など多様なCKD集団で腎不全進行抑制の可能性
研究の結果、これらのアルドステロン拮抗薬の投与が、腎代替療法導入の低リスクと関連することを初めて明らかにした(ハザード比:0.72, 95%信頼区間:0.53-0.98)。さらにこの関連は、糖尿病患者のみならず、糖尿病を有しない患者やeGFRが10~30mL/分/1.73m2とすでに腎不全が重度に進行した患者を含め、多様な患者層に当てはまることを示した。特に後者の知見は、限定的な症例のみをエントリーさせた従来のRCTには含まれない集団であり、同剤が幅広い背景因子を持つ症例に効果があることを示唆する点で特筆に値するという。
なお、高カリウム血症の発症リスクについては、アルドステロン拮抗薬投与でやや高かったものの、統計学的に有意な差ではなかった(ハザード比:1.14, 95%信頼区間:0.88-1.48)。同薬は、安全に投与継続可能であることが示唆されたとしている。
多様なCKD患者へのRCTで、アルドステロン拮抗薬投与による腎代替療法回避効果を検証へ
今回の研究成果を受けて、歴史の長い利尿薬であるアルドステロン拮抗薬が、末期腎不全を回避するための新たなCKD治療戦略の一手として脚光を浴びることが期待される、と研究グループは述べている。
また、今後、糖尿病患者や非糖尿病患者、重度の腎不全患者まで含んだ多様なCKD患者に対してRCTが行われ、アルドステロン拮抗薬の投与による腎代替療法の回避効果について検証されることが望まれるとしている。
▼関連リンク
・大阪大学 ResOU