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オミクロン株流行期におけるワクチン有効性、症例対照研究の暫定報告-感染研

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2022年02月17日 AM11:45

2022年1月3日以降の調査における暫定結果報告

(感染研)は2月15日、「新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第三報)」と題した速報を発表した。この報告は、国立感染症研究所感染症疫学センターの新城雄士氏、有馬雄三氏、鈴木基氏、クリニックフォア田町の村丘寛和氏、KARADA内科クリニックの佐藤昭裕氏、公立昭和病院の大場邦弘氏、聖路加国際病院の上原由紀氏、有岡宏子氏、新宿ホームクリニックの名倉義人氏、インターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁氏、中鉢内科・呼吸器内科クリニックの中鉢久実氏、複十字病院の野内英樹氏、日本赤十字社医療センターの上田晃弘氏、横浜市立大学付属病院の加藤英明氏、池袋メトロポリタン・クリニックの沼田明氏、埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭氏、西田裕介氏、埼玉石心会病院の石井耕士氏、大木孝夫氏、国際医療福祉大学成田病院の加藤康幸氏、町田駅前内科クリニックの伊原玄英氏らによるもの。同調査は感染研および協力医療機関において、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された。なお、同報告は迅速な情報共有を目的としたものであり、内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。


画像は感染研サイトより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で有効性(vaccine efficacy)が90%以上とされ、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン1種類も有効性が70%程度とされた。国内においても、感染研にて、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける成人(20歳以上)を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施している。これまでの暫定報告においては、日本における新型コロナワクチン導入初期に流行したB.1.1.7系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)に対して、高い有効性(vaccine effectiveness)を示すことが確認された。しかし、海外の報告によると、2回接種により獲得した免疫が半年程度で減衰することが確認されており、国内でも2021年12月から3回目の接種(ブースター接種)が開始となった。また、2021年11月末以降に出現し、世界各地に急速に流行拡大した感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されるB.1.1.529系統()については、デルタ株を含む過去の流行株に比してワクチンの有効性が減弱している可能性が指摘されている。そこで、今回は、関東において上旬にはオミクロン株が9割以上を占め、下旬にはほぼ全ての検出株がオミクロン株であったと想定される、2022年1月3日以降の調査における暫定結果が報告された。

ワクチン接種歴を7カテゴリーに分け、陽性と陰性とで比較解析

2022年1月3日から31日までに関東の複数医療機関の発熱外来等を受診した成人(20歳以上)を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含むアンケートを実施。除外基準である未成年者、意識障害のある者、日本語でのアンケートに回答できない者、直ちに治療が必要な者、本アンケート調査に参加したことのある者には調査参加の打診は行われなかった。のちに各医療機関で新型コロナウイルス感染症の診断目的に実施している核酸検査(PCR)の検査結果が判明した際に検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類。発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある者に限定して解析が行われた。

ワクチン接種歴については、(1)未接種、(2)1回接種後、(3)2回接種後0~2か月(0~60日)、(4)2回接種後2~4か月(61~120日)、(5)2回接種後4~6か月(121~180日)、(6)2回接種後6か月以降(181日以降)、(7)3回(ブースター)接種後の7つのカテゴリーに分類された。解析に際してワクチンの種類は区別されなかった。ロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比と95%信頼区間(CI)を算出し、ワクチン有効率は(1-オッズ比)×100%で推定された。多変量解析における調整変数としては、先行研究等を参照し、年代、性別、基礎疾患の有無、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1か月の新型コロナウイルス検査の有無、3か月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴の有無がモデルに組み込まれた。ワクチン有効率においては、多変量解析から得られた調整オッズ比が使用された。ワクチン接種歴等について、欠損値のある者は解析から除外された。

発熱外来等を受診した成人1,352名を解析、うち4割が陽性

関東の13医療機関において、発熱外来等を受診した成人1,755名が同調査への協力に同意した。うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した69名、症状のなかった334名は解析から除外された。

解析に含まれた1,352名(うち陽性547名(40.5%))の基本特性は、年齢中央値(範囲)35(20-92)歳、男性686名(50.8%)、女性665名(49.2%)であり、何らかの基礎疾患を342名(25.3%)で有していた。また、ワクチン接種歴について、未接種者は213名(16.0%)、1回接種した者は16名(1.2%)、2回接種した者は1,077名(81.1%)、3回接種した者は22名(1.7%)だった(ワクチン接種歴の欠損24名を除く)。接種日まで判明している者において、3回接種からの期間は中央値(範囲)16(3-37)日だった。なお、ワクチン接種歴のある1,115名中、回答のなかった52名を除いて466名(43.8%)がワクチン接種記録書等の原本や写真等を携帯しており、597名(56.2%)はカレンダーや手帳を見ながらアンケートを回答した。

ワクチン有効率、2回接種6か月以降53%、3回接種後81%

ワクチン接種歴を接種回数および接種後の期間別で7つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した結果、未接種者を参照項とする調整オッズ比は、2回接種後0~2か月で0.29(95%信頼区間(95%CI)0.13-0.64)、2回接種後2~4か月で0.46(95%CI 0.30-0.71)、2回接種後4~6か月で0.51(95%CI 0.35-0.75)、2回接種後6か月以降で0.47(95%CI 0.26-0.84)、3回接種後で0.19(95%CI 0.06-0.59)だった。

調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出した結果、2回接種0~2か月後では71%(95%CI 36-87)、2回接種2~4か月後では54%(95%CI 29-70)、2回接種4~6か月後では49%(95%CI 25-65)、2回接種6か月以降では53%(95%CI 16-74)、3回接種後では81%(95%CI 41-94)だった。

3回目接種でオミクロン株感染による発症予防効果が高まる可能性

今回の調査により、オミクロン株流行期においては、2回接種後でも、2か月以降では有効率が一定程度低下していることがわかった。一方で、3回(ブースター)接種を受けた者は数が少ないものの、ブースター接種によりオミクロン株感染による発症予防効果が高まる可能性が示された。

諸外国の報告として、英国からの報告では、オミクロン株感染による発症に対する、ファイザー社製またはモデルナ社製のワクチン接種の有効率は、2回接種2~4週後は65-70%、25週後には10%程度まで低下、ブースター接種2~4週後には60-75%に高まるという結果だった。米国からの報告では、mRNAワクチン(ファイザー社製またはモデルナ社製)3回接種と未接種の比較から、有効率はデルタ株で93.5%(95%信頼区間(95%CI)92.9-94.1%)、オミクロン株で67.3%(95%CI 65.0-69.4%)だった。今回の報告でのワクチン有効率は、信頼区間は広いものの、点推定値は、これら諸外国の報告よりも高い値だった。

諸外国や今回の調査結果から、2回接種から期間が経過すると有効率が一定程度低下することが示唆されるため、ワクチン接種者においても、適切な感染対策を継続することがより一層重要となっている。ただし、今回の報告からは、オミクロン株流行期においても2回接種による発症予防効果は一定程度認められることが示唆され、また、海外の報告からは重症化予防効果は発症予防効果よりも高い値で維持されることが示されており、未接種者は速やかに接種を検討することが重要。さらに、ブースター接種により、ワクチン有効率が高まることから、ブースター接種が可能になった際には接種を検討することも重要となる。

今回の調査は迅速な情報提供を目的としている暫定的な解析であり、また、英国からの報告ではブースター接種から一定期間経過すると有効率が低下する可能性が示唆されているため、今後も解析を適宜行い、経時的に評価していくことが重要だ。

3回目接種後の詳細な期間別の発症予防効果は今後の検討課題

今回の調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、1つ目に交絡因子、思い出しバイアス、誤分類等の観察研究の通常のバイアスの影響を否定できない。特にワクチン接種歴については、ワクチン接種記録書等の原本や写真を携帯している者は4割程度であり、カレンダーや手帳をみながら回答する者が多かった。2つめの制限として、ワクチンの接種が進むにつれて、ワクチン接種者とワクチン未接種がワクチン接種歴以外の部分で異なる可能性が高くなる。また、ブースター接種は医療従事者や高齢者から優先的に開始されたため、未接種者との比較は解釈により注意が必要である。3つ目の制限として、ワクチン接種歴等について欠損値のある者は同解析では除外された。ただし、ワクチン接種回数や接種月が不明であった者は85名(6.3%)であり、影響は限定的であると考えられる。

4つ目の制限として、今回の調査はアンケートに回答可能な軽症例を対象としており、無症状病原体保有者・中等症例・重症例・死亡例における有効性を評価しておらず、ワクチンの種類ごとの有効性は評価しなかった。5つ目の制限として、同報告では陽性例についてウイルスゲノム解析を実施しなかった。ただし、オミクロン株流行期における解析であり大部分はオミクロン株への感染であったとの想定のもとで実施された。6つ目の制限として、サンプルサイズの制約から期間別の有効率の信頼区間が広い。特に3回目接種後の詳細な期間別の発症予防効果については今後の検討課題である。

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