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シスチン・グルタミン摂取が、激しい運動に伴う腸管バリア機能の低下を抑制-早大ほか

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2022年02月17日 AM11:15

・グルタミン摂取が、激しい長時間の運動後の腸管バリア機能に与える影響は?

早稲田大学は2月16日、一過性の激しい運動が腸管透過性に及ぼす影響を評価し、アミノ酸のシスチン・グルタミンを摂取することで、運動により腸管が受けるダメージおよび守る働きの低下を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大スポーツ科学学術院の宮下政司教授、同大大学院スポーツ科学研究科修士課程2年在籍の田髙悠晟氏と、味の素株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Nutrition」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アスリート(特に持久系アスリート)の多くが、運動中および運動後に腹部の不快感を経験していることが報告されている。これは、長時間または激しい運動による「体温の上昇」と「消化管機能の低下」によって、細胞に隙間ができ細菌や毒素が腸管内腔から血管内へ漏出しやすくなり、炎症が生じているために起きている現象である可能性が示唆されている。このような現象は、アスリートのコンディションあるいはパフォーマンスの低下と関係していることが考えられるため、スポーツ現場における抑止策を確立することは重要だ。

このような背景から、これまでの先行研究では、牛の初乳やポリフェノール、ビタミンE、クルクミンなどのサプリメントを用いた腸管バリア機能の低下の抑止策が検討されてきた。しかし、これらのサプリメントは、入手が容易ではないことや、摂取量が多すぎることが問題点として挙げられる。そのため、多くのアスリートが日常的に摂取しやすいような、入手が容易かつ低用量のサプリメントの開発や検討が急がれている。

これらのサプリメント以外に、シスチンの生理作用として腸管の炎症を抑制することが、細胞実験によって報告されている。さらに、グルタミンの生理作用として、激しい運動による腸管バリア機能の低下を抑制することが報告されている。しかし、シスチンとグルタミンの組み合わせによるサプリメントとしての摂取が、運動による腸管バリア機能の低下を抑制させるか否かは、これまで明らかにされていない。そこで研究グループは今回、シスチンとグルタミンの組み合わせによるサプリメントの摂取が、長時間の激しい運動による腸管バリア機能の低下に与える影響を検証した。

1日3回、6日間継続摂取で激しい運動後の腸管バリア機能低下が抑制される可能性

研究では、平均年齢23歳の健康な若年男性16人を対象に、サプリメントの摂取を1日3回、計6日間継続をしてもらった。サプリメントは、プラセボとシスチン・グルタミンの2つを用意し、各サプリメントの摂取期間をそれぞれ、Placebo試行とCys2/Gln試行とした。なお、サプリメント摂取1回あたりのシスチンとグルタミンの含有量は、それぞれ0.23 gと1.0gとした。実験デザインは、全対象者が両試行に参加するクロスオーバー法を用いた。

運動は、トレッドミル(ランニングマシン)を用いたランニングとし、最大酸素摂取量の75%に相当する速度で1時間実施し、長時間の激しい運動となるように設定した。腸管透過性と腸管のダメージの評価には、それぞれラクツロースとマンニトールの比(L/M比)と腸管中脂肪酸結合タンパク質(I-FABP)の2つの測定項目を用いた。

その結果、ランニング後のL/M比とI-FABPは、Cys2/Gln試行でPlacebo試行よりも有意に低い値を示した。この結果は、シスチン・グルタミンのサプリメントを1日3回、計6日間継続して摂取することで、長時間の激しい運動による腸管バリア機能の低下が抑制される可能性があることを意味しているという。

激しい運動で腹部不快感を抱えるアスリートの「コンディショニング低下抑止策」としての活用に期待

激しい長時間の運動による腸管バリア機能の低下は高温・多湿環境下でより顕著に表れる。これは、熱ストレスが運動による消化管へのダメージをさらに増大させるためだ。しかし、今回の研究では、高温環境下での運動でなくとも腸管バリア機能が低下し、シスチン・グルタミンの摂取で、その機能低下の抑制が確認された。

この結果から、低用量のシスチンとグルタミンサプリメントの継続的な摂取が、特に持久系アスリートの多くが、長時間の激しい運動中と運動後に経験しているとされる腹部の不快感の発生を予防し、ベストコンディションでパフォーマンスを発揮できるようになることが期待される。そのため、今後は「慢性的な運動トレーニングに伴い、腹部に不快感を抱えるアスリート」を対象に、シスチン・グルタミンの摂取で、これらの症状が抑えられるかを調査する必要がある。

「本研究では、激しい運動で生じる疲れを筋肉や代謝動態の変化ではなく、お腹に着目し、味の素株式会社との共同研究により、目標を達成することができた。得られた知見を活かし、引き続き、栄養素の質や組み合わせによる研究に取り組みたい」と、研究グループは述べている。

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