胎児期には心臓の細胞源になる「心外膜」のバイオマーカーを探索
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は2月9日、心筋の修復や再生を担う細胞の供給源である心外膜細胞をiPS細胞から作製し、その細胞表面タンパク質であるCDH18が心外膜細胞の特徴的なマーカータンパク質であることを突き止めたと発表した。この研究は、CiRA増殖分化機構研究部門のJulia Junghof研究員(医学研究科)、Antonio Lucena-Cacace研究員、吉田善紀准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Regenerative Medicine」に掲載されている。
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心臓を含めた循環器系疾患は世界でも死亡者の多い疾患。ヒトの心臓は、傷を負った場合に自らの力で再生することができない。近年では、胎児期に心臓の発生で細胞の供給源となる心外膜が注目されている。胎児期の心外膜細胞は、平滑筋や線維芽細胞、内皮細胞など、心臓を構成するさまざまな細胞に分化することができる。これまで、心外膜を利用した治療法の研究は進められていたが、心外膜の発生や活性化の仕組みについては、まだよくわかっていなかった。また、心外膜細胞を見分けるバイオマーカーとして、細胞表面に存在するタンパク質は同定されていなかった。
iPS細胞から発達段階の心外膜細胞を誘導し成熟細胞と比較、CDH18を同定
今回、研究グループは、心外膜細胞を判別する指標となる細胞表面タンパク質を同定し、iPS細胞から効率よく心外膜細胞を誘導した。
まず、心外膜細胞の遺伝子発現状態を調べるために、iPS細胞から発達段階にある心外膜細胞(Epi12(早期)、Epi48(遅い時期))を誘導し、成熟した成体の心外膜と比較した。細胞内のmRNAを網羅的に解析したところ、3種の転写因子(WT1、TBX18、ALDH1A2)が若い心外膜細胞で特徴的であると判明。これらの転写因子いずれとも相関して遺伝子発現が見られる遺伝子として、2,221種が見つかり、そのうち細胞の表面タンパク質をコードする遺伝子は49種あった。ここから心外膜細胞で働いている表面タンパク質として15種類を選抜し、さらに、心外膜細胞以外の細胞と関連が深いものを除いた。その結果、CDH18をバイオマーカーとして同定した。
CDH18発現抑制により心外膜細胞は平滑筋細胞に分化
CDH18の働きを調べるために、siRNAによりCDH18を抑制した細胞を作製し、免疫染色を行った。すると、CDH18を抑制した心外膜細胞(d12・si18)では、抑制していない細胞(d12・scr)と比較して、平滑筋細胞の指標となるα-SMAが増加し、心外膜細胞の指標となるZO1が減少していた。
次に研究グループは、CDH18を抑制することで、各遺伝子の転写量に与える影響を調べた。その結果、心外膜細胞(Epicardium)に特徴的な遺伝子の発現が抑制され、平滑筋細胞(SMC)に特徴的な遺伝子の発現が活性化されていた。これらの結果から、CDH18は平滑筋細胞への分化を制御する上で重要な因子であると考えられた。
今回の研究により、心外膜細胞のバイオマーカーとして、CDH18が見出された。「ヒトiPS細胞から作製した心外膜細胞は、ヒトの心外膜を研究するツールとして利用でき、また、心臓の修復や再生に利用可能な、活性化した心外膜細胞を作る研究への応用も期待できる」と、研究グループは述べている。
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