腸内細菌に影響する食物繊維、摂取量とその後の要介護認知症リスクの関連は?
筑波大学は2月10日、国内の3つの地域における住民約3,700人を最大21年間にわたって追跡調査し、中年期に食物繊維を多く取ることで、高齢期の要介護認知症の発症リスクが低下する可能性を、世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系ヘルスサービス開発研究センターの山岸良匡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutritional Neuroscience」に掲載されている。
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認知症はさまざまな原因により、認知機能が低下する病気で、そのうち、介護保険における要介護認定に至った認知症は「要介護認知症」とされる。認知症は本人と家庭だけでなく、社会にも大きな負担をもたらすことから、その予防方法に関する知見が求められている。
認知機能と食物繊維の関係が注目されている。食物繊維は穀類やいも類、野菜、果物などに多く含まれる栄養成分で、腸内細菌にも影響を与えることが知られている。腸内細菌は、消化管の病気だけでなく、認知機能にも関与している可能性が実験などにより示されている。しかし、実際に多くの人々を集めて、食物繊維の摂取量とその後の要介護認知症のなりやすさの関連を調べた研究は、これまでなかった。
最大21年間追跡、水溶性/不溶性食物繊維、いも類・野菜・果物摂取量に応じてグループ分け
今回、研究グループは、日本人の健康に関する大規模コホート研究「CIRCS研究」を実施している秋田、茨城、大阪の3地域の住民で、1985~1999年の間に健診時に実施した栄養調査に参加した40〜64歳の3,739人を対象に、1999~2020年までの最大21年間にわたって追跡。その間に発症した要介護認知症を登録した。
分析は、まず、24時間思い出し法で、前日の食事を聞き取った情報をもとに、食物繊維(水溶性および不溶性)と、食物繊維を多く含む食品群であるいも類・野菜類・果物類の摂取量を計算し、それぞれの摂取量に応じて対象者を4つのグループに等しく分けた。次に、認知症の主なリスク要因を統計学的に調整した上で、食物繊維摂取量が下位25%の群に対する他の群の要介護認知症リスクを算出した。さらに、認知症を、脳卒中既往のある認知症と脳卒中既往のない認知症の2つのタイプに分けた分析も行った。水溶性食物繊維・不溶性食物繊維・いも類・野菜・果物摂取量と要介護認知症リスクとの関連も同様に分析した。
食物繊維摂取量が多いほど要介護認知症発症リスク低下傾向、水溶性線維で傾向はより強い
その結果、食物繊維摂取量が下位25%(第一四分位)の群に対し、25%〜50%(第二四分位)、50%〜75%(第三四分位)、および上位25%(第四四分位)では、要介護認知症の発症リスク(多変量調整ハザード比)はそれぞれ0.83倍(95%信頼区間0.67-1.04)、0.81倍(同0.65-1.02)、0.74倍(同0.57-0.96)で、食物繊維の摂取が多いほど要介護認知症の発症リスクが低下する傾向が見られた。この関連は、脳卒中既往を伴わない認知症においてのみ見られた。
また、食物繊維のうち水溶性食物繊維については、摂取量が下位25%の群に対し、要介護認知症の発症リスクは摂取量25%〜50%の群で0.72倍(95%信頼区間0.58-0.90)、50%〜75%の群で0.77倍(95%信頼区間0.62-0.96)、上位25%の群で0.61倍(95%信頼区間0.48-0.79)と、より強いリスク低下傾向が見られた。いも類摂取量においても同様の関連が見られたが、野菜類、果物類ではこのような関連は見られなかった。
脳卒中既往を伴わない要介護認知症のみで関連したことから腸内細菌への影響が示唆
研究により、食物繊維(特に水溶性食物繊維)の摂取が多いほど、要介護認知症の発症リスクが低くなることが、世界で初めて疫学的に示された。この関連は、要介護認知症の中でも脳卒中既往を伴わない認知症のみに見られた。食物繊維が豊富ないも類においても同じ関連が見られた。
脳卒中既往を伴わない認知症の多くはアルツハイマー型認知症と考えられ、食物繊維の摂取が腸内細菌の構成に影響を与え、神経炎症を改善したり、他の認知症危険因子を低減することにより、認知症発症リスクを低下させる可能性が考えられている。
「認知症の成因にはまだ不明なことが多く、1つのコホート研究の結果だけで因果関係を断定することはできないが、研究結果は、認知症予防につながる知見の一つと言える」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JORANAL